第11回 – 第20回(2002年9月~2003年5月)

第11回 - 第20回

2002年9月~2003年5月

第11回 (2002年9月)
terra がラテン語で「大地」を意味することは前回,前前回でお話しました。この言葉の応用をもう少し考えてみましょう。terrestrial はその形容詞形ですが、terrestrial equatorといえば「(地球の)赤道」を意味します。territory といえば国の「領土」となりますが、同時に動物の「なわばり」を意味することも覚えておきましょう。ちなみに「領海」はterritorial sea ですが、同じ意味のthe territorial waters は通常複数形で用います。 「領土」とは「その国の主権が及ぶ土地」を指しますが、ある国のなかに歴史上自国の主権の及ばない土地があったことは歴史で習ったことがあるでしょう。これが「治外法権」で、英語ではextraterritoriality と言います。extra は「余分の、範囲外の」という意味で、このままでも「(映画の)エキストラ」などに使いますが、「領土のなかで主権の及ぶ範囲外の土地」のあることを指します。「尋常でない、並でない」を意味するextraordinary などは、extra(外の)+ordinary(ふつうの) と分けて考えればすぐわかるでしょう。長い単語にであったら、慌てずに、まずどこで切るかを考えることが大事です。 石井米雄
第12回 (2002年10月)
extra を覚えたついでに反対のintra も覚えましょう。これは「内部の、内側の」という意味です。international は「国際間の」の意味ですが、intranational は「一国内の」を意味します。フィリピンの首都マニラにintra muros という地名がありますが、これは「城壁の内側」の土地,つまり「城内」を指します。muros とはwalls のこと。面白いことにこの「壁=塀」が「学校の構内」の意味で使われることがあります。intramural がそれで、たとえば対抗試合でなく、学内だけで行う競技は intramural sports,intramural gamesと言うことを覚えておきましょう。 ひとつの政党のなかでの派閥間の抗争などはさしずめintraparty fight となりましょうか。たとえばアメリカの一州内部だけの通商はintrastate commerce (州内通商)です。このほかにもintraregional(地域内の)、intragalactic(一つの銀河系内でおこる)や、地学で学んだ「一つの氷河期ともうひとつの氷河期の間の時期」、つまり「間氷期の」をあらわすintraglacial など、intraからはさまざまな学術用語が作られています。 石井米雄
第13回 (2002年10月)
am pm というコンビニを知っていますか?「24時間開いている」ということを「午前」「午後」を示す略語で示したしゃれた名前ですね。ところでam ってなんですか?これまた例のラテン語で、ante meridiem を略したものです。じゃpm は?これはpost meridiem の省略形。両方に共通のことばはmeridiemですね。英語でいうとmiddayつまり「正午」という意味。するとante は「前」という意味ですから、昼前、つまり「午前」となります。post は「後」ですから、「午後」です。ante のついた英語を考えてみませんか? Antedate はどうでしょう。「???に先立つ」ですね。ついでにAntecede も覚えましょう。-cede は to go を意味しますから、「先に行く」つまり「先行する」となります。もうすこし頑りましょう。cede が変化したcedent をつけて antecedent とすると、形容詞になります。an antecedent event といえば「???より前に起こった事件」ということになりますね。ついでのことながら洋風の家によくある入り口の間はantechamber です。 石井米雄
第14回 (2002年11月)
前回はante(前)と post (後)を覚えました。post は日本語になってしまいましたね。「ポスト小泉」などというでしょう。post のついた英語を考えてみましょう。前回やったantedate の反対語は postdate で、書類に実際より後の日付を書き込むことを意味します。 これまた日本語で「ポスドク」というがありますが、正しくはpostdoctoral で,「博士号を取得後の」という意味です。ちょっとむづかしいですがposthumous はどうでしょう。「死後」という意味です。posthumous books といえば著者の死後出版された本のこと。この言葉を分解すると post+humous になります。post はさておきhumous ですが、これはラテン語の「大地、土」をhumus から派生したことばです。人は死ぬと土にかえるというでしょう。その「土」の意味で、「土に返った後」ですから「死後」となるわけです。「後回しにする」のもpost をつかってpostpone です。-pone は「置く」という意味ですから、あわせて「後に置く」つまり「後にする」となります。 石井米雄
第15回 (2002年11月)
前回は「前」という意味のante の話をしました。今日はこれと一見似て非なるantiについて考えてみましょう。「アンチ」という言葉は日本語になっていますね。「アンチ巨人」を知らない人はいないでしょう。「反対する」とか「対抗する」という意味に使います。 ところでante(前)とanti(反,抗)とは、違う語であるどころか、言語そのもが違うのです。anteがラテン語なのに対して、anti の方はギリシャ語です。お医者さんに処方してもらうantibiotic は、バクテリアなど他の微生物の生育を阻害する働きをする「抗生(物質)」を意味します。Anticancerが「抗癌性の(薬)」を意味することは想像できますね。通常ABMと略称される antiballistic missile は「弾道ミサイル迎撃用ミサイル」です。ご愛嬌に、英語にもこんなに長い単語があることをご紹介しておきましょう。anti-disestablishmentarianism がそれです。19世紀にイギリスで起きた英国国教会に対する「非国教化反対運動」のこと。anti-dis-establishment-alian-ism と分析して意味を考えて見ましょう。 石井米雄
第16回 (2002年12月)
前回お話したanti-biotic で出てきたbio- という言葉を最近よく耳にします。臓器の移植はどういう基準に従うべきか、などを議論するときに使うbio-ethics (生命倫理)という言葉などがそれです。もともとこれはギリシャ語で「生命」をあらわすbios という言葉が語源です。そこで「生物学」はbiologyとなることはわかるでしょう。近年急速に進歩し「バイオサイエンス」として日本語にも入った「生命科学」がbio-science となることはすぐ見当がつきますね。人間の一生を書いた「伝記」はbiography です。graphy とはもともと「書く」を意味する動詞grapheinから出来た言葉で、「書かれたもの」という意味。これに「自分の」を意味するauto- をつけたauto-biography いうまでもまく「自叙伝」となります。sphere は「範囲、領域」という意味ですからbio―sphereといえば、地球上の生物の生活可能な地域全体を指します。夜更かししすぎると狂ってしまう「バイオリズム(biorhythm)」は、すっかりおなじみの言葉になってしまいましたね。 石井米雄
第17回 (2002年12月)
バイラテラルという言葉を聞いたことがありますか?「双務的な」「互恵的な」という意味ですが、たとえば二つの国に協定が結ばれる場合など、ふたつの当事者が互いに義務を負いあうことを意味します。綴りはbilateral となります。この場合bi-は「二つの」という意味。ラテン語で「二度」をあらわすbis が語源です。ところで近頃「バイ」ではなく「マルチ」で、などということがよく言われます。たとえば協定の当事者が二国だけではなく、多国にまたがる場合などに使います。その時はbilateral agreementでなくmultilateral agreementとなります。これに対して「一方だけの」「片務的な」であればunilateral となるわけです。uni, bi- multi-を覚えておくと、いろいろと応用が利きます。たとえばunisexual reproduction「単性生殖」に対して「両性生殖」はbisexual reproduction となります。また「多色の」はmulti-colored ですが、これが「単色の」となるとunicolored となるといった具合に。 石井米雄
第18回 (2003年1月)
今回も身近な英語を考えてみましょう。アメリカ国防総省の建物を俗にペンタゴンということは知っていますね。ペンタゴンとは五角形のことですが、the Pentagon といえば、五角形の建物をもつ国防総省をさすようになりました。ちなみに pentaはギリシャ語で「5」のことです。その形容詞形はpentagonalとなります。オリンピックの五種競技は、それぞれ、男子は「走り幅跳び、槍投げ、200メートル、円盤投げ1500メートル」、女子は「100メートルハードル、砲丸投げ、走り高飛び、走り幅跳び、800メートル」ですが、この五種競技のことをpentathlon と言います。pentathlonの後ろのathlonは競技を意味する同じくギリシャ語です。この言葉からathlete,athletic,athleticsなどの英語が派生しています。それぞれ「競技者、運動家」、「体育の」、「運動競技」の意味です。ちなみに運動会はathletic meeting。 石井米雄
第19回 (2003年1月)
キンチョールという家庭用殺虫剤がありますね。そこには英語でinsecticide と書いてありました。そこで今日はいささか物騒な話をしましょう。この言葉はinsect+cide と分解できます。insectが虫であることは知っていますね。その後ろのcide はラテン語の変化した形で「殺す」を意味します。それで「殺虫剤」となるわけです。「自殺」はsuicide ですが、これは「自身の」を意味するsui に cide をつけて出来た言葉。「民族皆殺し」を意味する「ジェノサイド」は日本語になってしまいましたが、これは「民族」をあらわすギリシャ語のgenos とcide をくっつけた造語です。このようにラテン語とギリシャ語を合成して新しい言葉を作ることがあることをおぼえておきましょう。世界史に出てくる「国王殺し」はregicide ですがこれは「王様」をあらわす reg- とcide の組み合わせ。もっとおっかない「父親殺し」は patricide ,「兄弟殺し」は fratricideですが、それぞれ「pater=父親」と「frater=兄弟」にcide をつけたものです。物騒な話は、この辺でおしまいにしましょうか。 石井米雄
第20回 (2003年2月)
前回は物騒な話をしましたから、きょうは平和について考えてみましょう。「平和」はラテン語で pax といいます。19世紀の世界史ではラテン語をそのまま使って Pax Britannica ということが言われました。英国の支配による平和という意味です。20世紀には Pax Americana とか、Pax Sovieticaがよく使われました。それぞれ「アメリカの支配による平和」、今では崩壊してしまいましたが「ソ連の支配による平和」であることは想像がつくでしょう。pax の形を paci- と変えるといろいろな言葉をつくることができます。「作る」を意味する fi-をつけると、pacifism つまり「平和主義」となります。pacifist は「平和主義者」 pacification といえば「平和を回復すること」です。テロ活動の排除から講和、和解、平定などと訳せます。そうそう忘れるところでした、もっと身近なところに Pacific Ocean がありますね。いうまでもなく「太平洋」です。 石井米雄