帰国後のKUIS在外公館派遣員たち(Vol.1)

総領事館派遣員赴任中
現在
大学卒業後、私は在外公館派遣員としてインド?チェンナイに二年間赴任しました。「やりたい仕事」が分からなかった私は、海外で自分を試したいと思い派遣員に挑戦しました。合格まで三度の受験を重ね、ようやく掴んだ派遣員としての生活は、私にとって将来へつながる扉が開いた瞬間でした。

赴任期間中

赴任から一年ほど経った頃、総領事が私の茶道経験を知り、公邸でのお点前を任せてくださいました。久しぶりに柄杓を手にしたときは、不安よりも「また茶道ができる」という喜びが勝っていました。実際に体が自然と動き出したときの安堵と嬉しさは、まるで自分の原点に戻ったような感覚でした。

そして驚いたのは、お点前のあとにインドのお客様から質問をいただいたことです。「この動作にはどういう意味があるのか」「なぜこの道具を使うのか」と、茶道に強い関心を示してくださいました。自分が想像していた以上に日本文化への興味があり、茶道の魅力を海外に伝えたいという思いが芽生えた瞬間でした。

さらに、インドでのお点前は私に大きな衝撃を与えました。管轄地域での日本文化イベントやチェンナイジャパンEXPOでも茶道を披露する機会をいただき、現地の多くの方々が興味を持って集まってくださいました。おしゃべりや写真撮影が大好きなインドの方々が静かにお点前を見守り、言葉で説明しなくても、ひとつひとつの所作に込められた心が伝わったのか、茶碗を両手で大切に受け取ってくださったのです。中には「茶道はとても美しい」と伝えてくれる方もいて、茶道の精神性が言葉を超えて届いた瞬間に、胸が熱くなりました。茶道は日本だけでなく、世界に開かれた文化なのだと強く実感しました。

帰国後

帰国後、私はGLOBA株式会社のKIMONO TEA CEREMONY MAIKOYA 新宿店で店長を務めています。海外からのお客様に着物を着付け、英語で茶道体験を紹介しています。店長としてシフト作成やスタッフの管理、採用面接なども任されていますが、派遣員時代に行っていた官房業務の経験が大いに役立っています。
接客中、ときには「一期一会」の説明に感動して涙を流す方がいらっしゃいます。日本人でも理解が難しい概念が、国境を越えて人の心を揺さぶる光景に立ち会うたび、茶道の力を信じずにはいられません。

今後

これからの夢は、茶道を通じてもう一度インドを訪れることです。派遣員として過ごしたあの土地で、今度は茶道家として再びお点前を披露したい。茶道の一挙手一投足に込めた心を、現地の方々と共有したいと願っています。そして、いつか日本という国の姿が変わったとしても、四季の移ろいと共に生き、今この瞬間を大切にする茶道の心が、未来のどこかでそっと息づいていてくれますように。その小さな祈りを胸に、今日も茶道と向き合っています。

最後に

大学時代の私は、将来に迷い、自分のやりたいことを見つけられずにいました。でも派遣員として過ごした二年間は、進むべき道を見つけるきっかけとなり、今の仕事へとつながっています。振り返れば、どんな経験も無駄ではなく、点と点がつながるように自分を支えてくれるのだと実感します。

もし今、やりたいことが見つからずに不安を抱えている人がいても、大丈夫です。どんな選択であろうと、思い切って挑戦した経験は、必ず未来の自分を助けてくれます。茶道と再び出会えた私のように、予想もしなかった場所から新しい扉が開くこともあります。どうか自分の可能性を信じて、一歩を踏み出してみてください。