異文化コミュニケーションを異質性、他者性との邂逅(接触)と定義すれば、言語的異文化コミュニケーションの最たる行為は通訳翻訳になるだろう。異文化コミュニケーション研究には様々なアプローチが考えられる中、本講演では異文化衝突、紛争にまで至る可能性をもった誤解(失敗)としてのクリティカルインシデントを通訳翻訳に関連させながら解説する。
本学の英米語学科に設置にされた通訳翻訳課程が今年で2年目を迎えるにあたって、通訳翻訳を異文化コミュニケーションのプロセスとみなし、実例を紹介しながら通訳翻訳に伴う誤解の解説をおこなう。
新皇冠体育外国語学部英米語学科准教授。専門は、異文化コミュニケーション論。デンバー大学人間コミュニケーション研究科修士課程修了、博士課程単位取得終了満期退学。日本アイ?ビー?エム株式会社、モントレー国際大学翻訳通訳研究科、立教大学経営学部を経て、現在に至る。
講師の小坂氏は、米国の大学および大学院にて翻訳通訳を専攻し、現在は本学英米語学科に設置された通訳翻訳課程において教育に携わっている。
講師は異文化ミュニケーションを異質性、他者性との邂逅(接触)と定義し、異文化間での対話には多声性が大きく関わっているとする。そして、この「声」という概念に着目すると、通訳とは原作の声を聞く行為として捉えられ、異文化コミュニケーションのプロセスとして位置づけられるという。
本講演では、通訳翻訳における誤解や誤訳を異文化コミュニケーションの問題として捉え、戦時中の誤訳が大事件のきっかけとなった事例、司法通訳において通訳者が置かれる立場、ビジネス翻訳における何気ない文章の誤訳、機械翻訳の問題と解決法、英語歌詞、映画タイトルの誤訳例などが解説された。また、学校名や商品名などの名前を翻訳する際の問題が取り上げられ、翻訳する言語の文化背景をいかに反映すべきかが困難かつ重要であることが指摘された。
質疑応答では、主に翻訳通訳のローカライズの問題、個人間における日常レベルでの通訳の問題などについて議論が交わされた。特にローカライズの問題は、文化翻訳の不可能性の議論に発展し、翻訳通訳が抱える課題が再び浮き彫りにされた。また、日常レベルでの通訳においては、必要な情報伝達と相手への配慮の不一致という問題が指摘されたが、基本的には専門通訳者であっても相手を傷つけないという前提があることが明らかにされた。最後に、誰のために通訳をするのか、通訳によってどのようなコミュニケーションを成立させようとするのか、それによって訳質を変えていくべきだという点が強調され、改めて通訳翻訳が異文化コミュニケーションのプロセスであることが示された。