お茶の水女子大学大学院修了。第一生命ライフデザイン研究所、フジタ未来研究所を経て、現在は現代文化研究所に所属するかたわら一橋大学大学院博士後期課程に在籍。出入国管理行政や日本の多文化化に関する多くの研究論考を発表。お茶の水女子大学大学院修了。第一生命ライフデザイン研究所、フジタ未来研究所を経て、現在は現代文化研究所に所属するかたわら一橋大学大学院博士後期課程に在籍。出入国管理行政や日本の多文化化に関する多くの研究論考を発表。
本年度からはじまった新シリーズ「多文化共生の未来とジレンマ」は、グローバリゼーションと国際人流について、その数量、移動の背景と送り出し要因、受け入れ社会における現状、そして将来の多文化共生社会作りなど、これまでの動向から要点を整理しつつ、日本における現状と展開を考える試みである。
シリーズ初回では講師の鈴木江理子氏が、まず日本の多文化化状況についての「よみかた」を、在日?滞日外国人の人口、国籍、在留資格などの統計や映像資料を用いて紹介した。少子化?高齢化が急速に進む日本では、日本人人口が毎年2%の増加にとどまっているのに対し、外国人は年間60%の割合で増え続けている。在日コリアンのように戦前から日本に移住した人々やその子孫である「オールドカマー/オールドタイマー」に加えて、70年代末からのアジア諸国からの様々な入国者や南米諸国からの日系人といった「ニューカマー」が増加した結果、2002年末の外国人登録者数は約185万人と過去最高を記録し、その国籍は183ヶ国にも及んだ。こうした人々と日本人との国際結婚も増えており、そのうち20万人はこの20年で帰化し、日本国籍を取得している。
講師は次に、このような帰化や国際結婚によってエスニックな文化的起源を日本以外にもつ日本人も含めて、日本で生活する人々の多文化化、すなわち国籍、母語や民族性などの急速な多様化に認識を深め、将来の日本社会をいかにデザインしていくのかを考える必要があると指摘する。一例として、現行の教育制度においては外国籍児童の小中学校での就学が義務でないためにおこる不就学児童の増加と諸問題を紹介した。こうした児童は日本語での学習についてゆけず、日本人児童ともなじめないうちに登校しなくなるが、その正確な数を把握すること自体も困難である。さらに、彼らは昼間過ごす「場所」がないことから非行に走り、そうでない者も日本語能力などの問題から将来の職業選択が極めて限られてしまう。その両親たちは大半が労働目的で来日しているため忙しく、またかならずしも定住する予定がないので、子供の不就学に対して何もできないでいる者も多い。現状では、既存の日本人学校で教員やボランティア員などができるかぎり対応する例と、いわゆるインターナショナルスクールのような外国人学校に通わせる例とがある。しかし、後者は日本政府や自治体の援助対象外で、高い授業料や不安定な経営基盤といった問題もある。
このように従来の学校と義務教育は、日本人のみを想定して作られた制度から、現状のニーズにあったものに変えてゆく必要がある。これが「多文化社会をデザインする」ことだ。たとえば、外国籍児童は日本語指導を必要としているが、国籍の別に依拠した現行制度では対応が難しい。多文化化が進行する現在、「言葉の壁」だけではなく、「制度の壁」をどのように取り払うかを考えることが日本社会の課題であるといえよう。