1995年の阪神大震災で被災した外国人へ、多言語で情報を提供するボランティア活動を始めたことをきっかけに、国籍、言語、文化、習慣などのちがいを認め合い、互いに尊重しあう「多文化共生社会」の実現を目指すボランティア団体として「多文化共生センター」が設立された。
その後、活動は着々と拡大され、99年にはNPO法人格を取得。現在全国に5つの拠点があり、多言語での相談、医療保健、エスニック?メディア、子どもプロジェクトなどの多彩な活動、自治体などとのパートナーシップの開発、ボランティアを核とする裾野の広がりなど、多くの点で、多文化の共生を目指す一つのモデルになっている。
震災直後も現在も、活動の中心となっているのはボランティアである。語学や異文化コミュニケーションのスキルを活かし、多くのボランティアが活躍する「多文化共生センター」の活動から、NPOやボランティアが果たしうる役割と可能性、パートナーシップのあり方、「多文化共生」の意味などについて考える機会としたい。
兵庫県生まれ。高校卒業後、海外を放浪。在日フィリピン人向けレンタルビデオ店勤務等を経て、1995年1月、阪神大震災で被災した外国人へ情報提供を行うボランティア団体「外国人地震情報センター」の設立に参加。同年10月、「多文化共生センター」への組織変更に伴い、事務局長に就任。1997年4月より代表。同センターの活動の他、NPOやまちづくりの分野でも積極的に提言を行う。2001年6月、携帯電話を利用した多言語ポータルサイト「@nippon」の運営会社を立ち上げ、副社長を務める。著書に『多民族社会ニッポンとボランティア活動』等。甲南女子大、 天理大学非常勤講師。
本研究所主催の第20回キャンパス?レクチャー?シリーズ講演会「ボランティアが築く多文化共生」が、11月13日にミレニアムハウスにて開催された。講師の田村太郎氏(「多文化共生センター」代表、甲南女子大学?天理大学非常勤講師)は、1995年の阪神大震災後、外国人被災者向けに多言語で情報提供を行うボランティア活動を開始、その後も、NPO法人の「多文化共生センター」として大阪、京都、東京など主要5都市を基盤に全国規模の活動を展開してき ている。同組織は、国籍?言語?文化などをこえて「日本で暮らす全ての人々が互いの違いを認めあい、共に生きる社会づくり」を目指し、日常の様々なニーズや相談への多言語対応、医療保険、エスニック?メディア支援、学齢児童向けの教材開発や交流会などを精力的におこなっている。また、2001年には携帯電話を利用した多言語ポータルサイト「@nipponを運営するベンチャー企業も設立した。
本講演で田村氏は、在日外国人のおかれた状況はここ10年ほどのうちに激変したが、法制度やマスコミ報道からは見えにくい部分で、日本社会の迅速かつきめ細かな対応が必要性とされており、それに取り組む役割こそがNPOに求められていることを指摘した。すなわち、活動の対象人数や分野を広げるのは当然のことながら、市民と行政との連係プレーや、当事者である在日外国人本人の参入による「担い手」の充実が求められているというのである。
このような方向性が求められる背景には、日本における多文化共生社会の進行が近年とみに加速化したという事情がある。過去10年間で在日外国人は単に増加したばかりでなく、「定住化」と「多様化」という性格をはっきりと表わし始た。1990年代に新たに来日した在日外国人は2倍('89年から計算すると約3倍)になっている。これまで最も多かった在日外国人は韓国?朝鮮籍をもつ人々であったが、2000年度末までにはそれ以外の外国人登録者数(中国、ブラジル、フィリピン、ペルーなどからのいわゆる「ニューカマー」)が100万人を突破、「永住」以外の在留資格で滞在する外 国人登録者も100万人を越えた。このように、定住化が顕著になってきた理由としては、ブラジルやペルーから来た日系人の受け入れ、国際結婚の増加、その家族の呼び寄せなどがある。また、今後は「永住」申請者の増加も予測される。
このように様々な国?文化のみでなく、年齢?ライフスタイルも異なる人々が日本で暮らすにつれ、彼らの求めるニーズも多様化し、その多岐にわたる課題への対処がNPOに期待されるようになってきた。例えば、結婚?出産?葬儀などの段取り、小学校での学習などにも、言語のみでなく宗教?民族文化ごとに様々な慣習があるため、個々人のレベルに対応できるような支援体制が必要で、豊富な人材と柔軟なシステムが必要とされる。さらに、そうした事例が積み重なってゆくと、「特殊なケース」に対応する例外的施策よりも、NPOや行政の活動に一貫して求められる基本方針を事前に確立する必要が出てくる。
こうした観点から、田村氏は多文化共生社会に求められる3つの方向性を打ち出している。すなわち、1.基本的人権の保証(不公平の是正、機会の均等化)、2.文化的?民族的少数者の力づけ(母語?母文化の保護?継承、文化選択の自由)、そして3.地域社会側の改善(異文化理解?多文化共生の視点の育成、ボランティア活動を軸とした「接点」づくり)である。そのためには、まずテーマごとに担い手同士が協働する、市民?NPO?行政のパートナーシップを確立しなければならない。行政側は政策?条例の大枠(グランドデザイン)を提示し、現場レベルではNPOが具体的な調査や提言を行うのみならず、個々の市民も自ら参加し評価をすることによって諸策の改善?向上に直接貢献するというものである。また、NPOの体質も、より機能的に改善される必要があると氏は指摘する。現場での活動に携わりたい、「ありがとう」と言われたいなど、自身が満たされることをも目的とするボランティア志願者は多数いるが、実際に組織が質の高い活動を続けるためには、将来構想を打ち立てたり、施策のマネージメント能力や専門知識を高めていくことが欠かせないというのである。したがって、今後のNPO像としては、「社会性の高いベンチャー?ボランティア事業」としてのイメージが最も理想的かつ現実的な道という。つまり、NPOがあくまでオープンな組織として機能し、当事者に限りなく近い多様な人材がストックされ、その時々のニーズに最もあう人々によるサーヴィス提供が行われることが必要なのである。
新皇冠体育のある千葉県では、在日外国人はすでに7万人を超え、首都圏から比較的遠く過疎化した地域では集団で居住するという現象もすでに既知のものとなっている。多文化共生はすでに足元の課題となってきているといえる。同夜集まった聴衆の間では、こうした現実に対する高い関心が見られ、具体的なNPO設立や活動オーガナイズの手法、学校教育におけるボランティアの義務化の功罪、語学力を活かした非営利系職業の可能性などについて活発な意見交換がもたれた