初めまして。2007年中国語学科卒業の宍倉香里と申します。結婚を機に台湾に渡り10年の月日が経ちました。南国の台湾での生活や、台湾という場所についてご紹介したいと思います。
台湾と私と家族
台湾は沖縄県宮古島の南西に位置する、九州より少し小さい島国です。気候は亜熱帯と熱帯に属し、特に熱帯の地域ではほぼ一年中海に入ることができます。かつては下関条約で清から日本に割譲されたこともあり、親日で有名です。時には、パワースポット、食の宝庫、また、フルーツ天国とも呼ばれます。
渡台当初、主人はまだ学生で、ドクター取得のための学会出席や、大学での実験に忙しい日々でしたが、今は無事就職し、海外出張もこなす一家の大黒柱です。子供は二人、ちょっと慎重ですが人見知りしない長男と、天然パーマがトレードマークで家族の台風の目である次男がいます。10年経った今では移民としても、母としてもだいぶ逞しくなりましたが、毎日異文化と戦いながら4人で何とか暮らしています。
台湾に眠る日本の明治?大正?昭和という時代
?台湾を代表する政治家、李登輝氏が日本の植民地政策を統括して「日本が理想的な日本人を作ろうとして出来上がったのが、李登輝という人間だ」と発言したことがあります。この言葉は台湾の街や歴史にも反映されていると感じています。
それが顕著に表れているのが、総統府を中心に広がる中央省庁が集まる街並みです。台湾大統領が執務を行う場所として有名な台湾総統府は、かつての日本総督府をほぼそのまま使用しています。台湾中央銀行、法務院、気象庁等、国の中枢機関も明治政府によって建設された建物をほぼ転用しています。
バスでその街並みを通過するとき、まるで明治時代にタイムスリップしたかのような不思議な感覚に陥ります。中でも総統府周辺は、明治、大正、昭和と流れる台湾の歴史を感じられる象徴的スポットです。
このような歴史的背景、親日であるという土壌、また、小さい国土ながらも移民を積極的に受け入れていることなどから、台湾での子育ては、日本語の継承という意味でも、国際結婚した両親の背景をポジティブに伝承できるので、恵まれていると感じています。
台湾人が語る台湾を伝えたい
2020年「越山臨海記」という本に出会い、幸運にも翻訳させていただくことになりました。台湾の目抜き通りと呼ばれる中山北路や、豊かな自然を擁する陽明山と深い碧い海を抱く港町の金山を繋ぐ陽金街道沿線の歴史と自然をまとめた本で、邦題は「山を越え海を抱き」です。本書は、陽明山国家公園に長年勤めた作者、李瑞宗氏が、30年以上の時間をかけてデータを集め完成させた大作です。
政治的背景から、海外で台湾作家の作品を出版することが難しい状況にありますが、東日本大震災以降、距離は縮まり、IT分野で有名なオードリー?タンIT大臣が日本のメディアに登場する機会が増えたとしても、台湾人が語る台湾はまだまだ浸透していないのが現状ではないでしょうか。
本書は、台湾生まれ台湾育ちの台湾人筆者が世界に向けて台湾を発信したいと願って執筆した書籍です。旅行ガイドブックには載っていない台湾が記されています。もしご興味が湧いた方がいらっしゃれば手に取ってみてください。
SNSと海外移住
?SNSの普及により、コミュニケーション手段が格段に進化したと実感したのは東日本大震災の時でしたが、10年経った今も、さらに進化を続けていると感じます。
昨年、新皇冠体育の新入生歓迎会がオンラインで開かれ、中国語学科卒業生と共にZOOMに参加させていただいたのは嬉しい出来事でした。十数年ぶりに花澤先生とお話ができて心から感謝です。このように移住したタイミングとSNSの拡大が重なったのは幸運だったと思います。
若者の国内志向が取り沙汰されて久しいですし、KUISの交換留学生枠も余っていると聞きましたが、オンラインで日本の家族友人ともすぐ繋がる今の時代こそ外の世界に出てみることをお勧めします。そして、教育レベルも高く、食べ物は美味しく、治安も良く、物価も若干安く、親日で移民に寛容な台湾ほど留学に適した場所は他にありません。
台湾生活10年目で思う事
KUISを卒業し、社会人を経て、まさか自分が海外で結婚し生活基盤を築くとは思っていませんでした。変化と決断の連続に押し潰されそうな時もありますが、家族?友人をはじめ新天地での出会いを大切にして来られたからこそ、今の生活を送ることができるのだと思っています。急激な変化についていくために、勉強したり、挑戦したり、諦めたりを繰り返しながら、柔軟性を持つことができたのかなと思います。
昨今、日台関係は美化して描かれることが多いですが、台湾で日本人として生きる上で気をつけていることは、台湾総統府を代表する日本統治時代の遺構は、本来は〝加害の歴史?であるという事です。
しかし、占領されていた歴史を台湾の人々は前向きに解釈し、建設的な関係を構築していこうと歩み寄る努力をしています。そんな寛容で親近感溢れる台湾に出会えてよかったですし、頭も上がりません。
新しい発見と気づきの毎日が送れるのは、KUISでともに過ごした学友や先生?職員の方々が異文化理解の面白さを教えてくれたからこそ。この喜びが未来の後輩たちにこれからも引き継がれ、新皇冠体育から世界で活躍する人材が羽ばたいてくれることを願います。
『山を越え海を抱き』ご注文フォーム
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2007年
中国語学科卒業
宍倉 香里