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仲代表の「グローバルの窓」

仲代表の「グローバルの窓」

第79回 “Please remember the original spirit of this project.”???? (このプロジェクトの本来の精神を思い出そう)

2024.10.29

サンディープに賭ける!

 EDB(経済開発庁)のプロジェクトをどう落着させるか、私が頭を悩ましていたとき、我々のパートナー企業を買収した欧州大手のシンガポール拠点のマーケティング責任者(サンディープ)から電話がありました。「このプロジェクトの次のステップであるアジア大洋州地域をどう攻略するか話をしたい」というものでした。サンディープのタスクはこのプロジェクトの次の展開、すなわち、どうビジネスを発展させるかを考えることにありました。しかし、今のプロジェクトが破綻するかもしれない状況で、次の展開などあり得ませんでした。今のプロジェクトに直接関わっている欧州大手会社の責任者は考え方が固く、協議をしてもいい解決策が見出せない状況でしたので、私はサンディープに状況を説明し、意見を聞いてみようと思いました。

 ランチに誘い、彼に今のプロジェクトがうまく落着しない限り、アジア大洋州地域に打って出るという次の展開はあり得ないと説明しました。なぜ、今のプロジェクトが前に進まないか、私は、「本プロジェクトは共同開発プロジェクトで、成果物は三社共有のIP(知的所有権)とする旨、明確に契約書に記載されているが、具体的な成果物に関し、御社は、ある部分はもともと持っていたIPで、今回のプロジェクトで開発したものではないので共有にするわけにはいかないと主張している。しかし、シンガポールパワー社は、電力管理のノウハウがなければ、そもそも今回の成果物は創出できなかったのだから、その言い分はおかしいと主張している。ここが解決しない限り、次のビジネス展開はあり得ない」と話をしました。その独自IPは、欧州大手会社が買収価値の一つとして重要視していたものでしたので、彼らとしては絶対に譲れないものでした。

 サンディープは、即座に問題の本質を理解しました。「なるほど状況はわかった。この問題は簡単ではないが、俺とお前で解決するしかない。俺は本社サイドと話をしてみる。お前は、シンガポールパワー社と話をし、落着点を見出そう」と前向きに発言してくれました。これまで欧州大手の会社でこのように前向きな発言をする人はいなかったので、私はサンディープに賭けるしかないと思いました。

落着点が見出せず

 それからは、何度もサンディープと二人だけのミーティングを行い、その上で正式な三社ミーティングで落としどころを探るというやり方でプロジェクトを進めました。しかし、詳細に議論すればするほど、どちらの主張もその立場に立てはよくわかるものでした。どちらが正しい、間違っている、ということではないことが明白になるのでした。

 そうこうするうちに、スマートエネルギー事業縮小の波が私にも押し寄せ、シンガポールから帰任することになりました。プロジェクトはまだ決着していませんでしたが、今後は出張ベースで解決せよ、とスマートエネルギー事業本部から言われました。私はサンディープにその旨伝えました。私の中では、これだけ揉めて、信頼関係がぐらついていては、次のステージに移行することは困難だろう、ならばこのプロジェクトをいかにうまく落着させるかに注力するしかないと思っていました。

 その後も落着点は見出せず、シンガポールパワー社と欧州大手会社の信頼関係は益々脆弱なものとなっていきました。両社からは、アジア大洋州地域への展開は、私の会社と二社だけでやろうとそれぞれから持ち掛けられるような状況でした。

原点回帰

 私はどうすれば両社が納得してこのプロジェクトに決着をつけられるか悩みましたが、けっきょく、アジア大洋州地域で拡販していくという次のステージを三社ともすっぱり諦めることで、決着を図るしかないという結論に達しました。また、円満に決着をつけるために、私はもう一つ重要なことを話そうと思いました。それは、「原点に立ち返る」ということでした。

 両社に呼びかけ、ミーティングをアレンジした私は冒頭に、「そもそもこのプロジェクトの精神は何だったかを思い出して欲しい。互いのコンピタンスを出し合い、共同開発を行う

ことでイノベーションを起こすことではなかったのか。そのためには、今、揉めているIP問題はその精神に反するのではないか。この点にもう一度立ち返り、決着を図りたい」

 私は冒頭に原点回帰を主張し、全員の理解を求めました。その上で、「私は欧州大手会社に当該IPを譲歩して欲しいと思うが、それがどうしてもできないというなら仕方がない。次のステージのアジア大洋州地域への展開は残念だが諦めざるを得ない。次の展開を諦めることで今回の成果物のIPは、シンガポール国内だけに共有化することで決着したい。これによりこのプロジェクトは完とする。異存があるなら言ってくれ」とかなり強い調子で言いました。サンディープとは事前にそれでいくけどいいな、と言ってあり、サンディープも内部で根回ししてくれていたようです。反論はなく、この共同開発プロジェクトは両社納得の上で終えることができました。これが私の最後の仕事となりました。シンガポール人、アメリカ人、インド人、日本人の多国籍プロジェクトは、こうして紆余曲折がありながらもなんとか帰結点を見出して終了しました。2年以上かかり、ようやくプロジェクトに終止符が打てました。

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