K-POP第4世代人気ガールズグループ『NewJeans』（ニュージーンズ）が2024年6月の東京ドーム公演で大成功をおさめました。これまでK-POPに無関心/スルーだった日本の中高年男性層までもが「沼る」彼女たちの魅力はどこにあるのか？『NewJeans』の実力プロデューサー/ミン?ヒジン氏が採用する「逆張りのビジネス戦略」の観点から、その快進撃の理由を解読します。
「NewJeans」、韓国観光広報大使に就任！
2024年7月11日、「テレ朝 news」が、人気K?POPガールズグループ「NewJeans」（ニュージーンズ）が韓国政府の「観光広報大使」に就任し、同日、任命式が行われた、と伝えました。
NewJeansのハニさんは、「韓国旅行でおすすめは？」の質問に対し、「暑いのでサムゲタンや冷麺を食べると美味しいと思います」と答えました。「参鶏湯」（サムゲタン）とは、鶏肉のなかに高麗人参やナツメなどの漢方を詰めて煮込んだ薬膳料理。
「名誉広報大使」の目的は、韓国の文化や魅力を世界に発信すること。今回新たに作成されたプロモーション映像は今後、東京や、オリンピック期間中のパリなど世界12都市のデジタル広告などで展開されるそうです。
K-POP第４世代「NewJeans」（ニュージーンズ）とは？
「NewJeans」（ニュージーンズ）とは、世界的な人気を誇るK-POPグループ「BTS」（防弾少年団）が所属するHYBE（ハイブ）傘下の新レーベル「ADOR」（アドア）から、2022年8月1日にデビューした5人組ガールズグループ。メンバーはミンジさん、ハニさん、ダニエルさん、ヘリンさん、へインさんの5人。平均年齢18.4歳。NewJeansのファンのニックネームおよびファンクラブ名は「うさぎ」を意味する「Bunnies(バニーズ)」！NewJeansは、第4世代ガールズグループ」の代表格と評されています。
NewJeans (???) 「Ditto」（ディット）公式MV （by NewJeans）
英語のdittoとは引用元の繰り返しを避けるとき「同上」「前に同じ」いう意味で使われます。この楽曲タイトルには「同じ気持ちだ」「好きだ」と言って欲しいという思いが込められているとされます。
ちなみに、K-POPのアーティストは、各世代に分けてよく語られます。「K-POPアイドル」が誕生した「第１世代」（1996年~）は、H.O.T.（エイチオーティー）や、クリスマスの名曲/定番『メリクリ』でも有名なBoA（ボア）さんなど。韓国３大事務所（SM、YG、J Y P）が台頭してくる「第２世代」（2000年代半ば）は、東方神起、BIG BAN、少女時代、KARAなど。
SNS（ソーシャルメディア）をプロモーションに活用し始めた「第３世代」(2012年?)は、BTS、BLACKPINK、TWICEなど。デビューから米国/世界市場をターゲットにしている「第４世代」（2018年~）が、NewJeans、LE SSERAFIM（ル?セラフィム）、aespa（エスパ）、ITZY（イッジ）。
コロナ禍が明けて諸規制が解かれた2023年以降にデビューした「第５世代」が、ZEROBASEONE（ゼロベースワン）、RIIZE（ライズ）、ILLIT（アイリット）など。この世代の特徴は、メンバーの国際化です。
東京ドーム公演、著名現代美術家「村上隆」氏とのコラボ
2024年6月26-27日、K-POP第４世代を代表するNewJeansは、東京ドーム2Days公演（日本ファンミーティング）を開催し、9万人を熱狂させました。デビューから1年11か月という、海外アーティストによる東京ドーム公演実施の最速記録を樹立。同年6月21日に日本デビューシングル 「Supernatural」をリリース。
同時に、世界的に著名な現代美術家、村上隆氏とのコラボレーションが発表され、村上氏デザインのNewJeansのメンバーをイメージしたオリジナルキャラクターも公開。村上氏のオリジナルキャラクター「DOB（ドブ）君」を思わせるキラキラ瞳を持ち、「うさ耳」カチューシャにはそれぞれのイニシャルがデザインされています。
芸術家?村上隆氏は東京藝術大学日本画科出身（同大日本画科初の博士号取得者）で1990年代に現代美術作家としてデビュー。カラフルでポップな「お花」がトレードマークで、オタク文化と日本美術を融合した独自のアートは世界を席捲してきました。仏高級ブランド「ルイ?ヴィトン」のアートディレクター（当時）であったマーク?ジェイコブ氏と、村上氏がコラボした「モノグラム?マルチカラー」は世界的に有名です。
この東京ドーム公演では、ハニさんが1980年代の代表曲である松田聖子さんの大ヒット曲「青い珊瑚礁」をステージで披露して盛り上がり、SNSなどでも大きな話題となりました。日本の1980年代をイメージしたレトロ風コーデの舞台衣装もインスタグラムやTikTokなどで評判になっています。ボーダーのトップスと白のスカート（膝下が隠れる「ミディ丈」）のマリンコーデ。白のブラウスとチェック型のスカート（ミディ丈）の舞台コスチュームに、「ハニ、大好き」「かわいい！」「ハニ、神」など、ファンから熱いコメントが寄せられています。
韓国では、2024年6月から日韓の歌姫がバトルする歌番組『日韓歌王戦』がスタートし平均視聴率が10％を超えるという人気番組となっています。そのなかで歌われた日本の名曲のひとつが「青い珊瑚礁」であり、韓国でも人気になっています。ハニさん歌唱の「青い珊瑚礁」の影響もあり、韓国のカラオケヒットチャートでも同曲が第１位になったそうです。
NewJeansは、BTSのHYBEグループの「ADOR」所属
（前述のとおり）NewJeansの所属事務所は、世界的な人気を誇るK-POPグループ「BTS」（防弾少年団）が所属するHYBE社（ハイブ、2024年7月時価総額: 8,450億円）の傘下にあるADOR（アドア）です。2022年7月22日に、メンバー構成などの情報よりも先にデビューアルバムのタイトル曲「Attention」のMV（ミュージックビデオ）を電撃公開したことで大きな話題となりました。
グループ名「NewJeans」（ニュージーンズ）には「毎日求められるようになり、いつ着ても飽きないジーンズのような時代のアイコンになる「New Gene」（新しい遺伝子）になる」という意味が込められています。
敏腕プロデューサー「ミン?ヒジン」氏の存在
「New Jeans」躍進の立役者がプロデューサーのミン?ヒジン氏。HYBE傘下のレーベル「ADOR」の代表理事として、NewJeansのメンバー選定から、音楽、ダンス、コンセプトまで、すべてを手がけています。
彼女は、元SMエンターテイメントのクリエイティブディレクターで、SHINee、EXO、Red Velvetなどを手掛け「コンセプト職人」との異名を持つほどの有能なプロデューサー/ディレクターです。
ミン?ヒジン氏は、NewJeansのプロデュース戦略について、インタビューで次のように語っています。
公式化されたK-POPスタイルへの「反抗心」
「これまで『ヒットするならこうあるべきだ』といういくつかの公式化されたK-POPスタイルの暗黙的な強要を感じてきました。当然視されてきたその公式を打ち破りたいという、一種の反抗心がありました。よく言われる『大衆性』の概念もまた、反復学習されてきた結果ではないか、という考えもありました。保証された成功のためにみんなが同じスタイルを目指すことが、業界従事者としても残念に思うことだったので、違う方式を提案したかった」（The JoongAng（中央日報）記事[2022年8月10/12日]）
K-POPの成功方程式とは「違う方向」に行こうとする彼女の考えに反対する関係者も少なくなかったようです。「『薄っぺらい』だったり、『大衆性のないスタイル』だと言う意見が凄くありました。『既存のKPOPアイドルの文法じゃないからヒットが難しいだろう』と断言する意見もありました。気にも留めませんでした。私がやろうと思った目標がはっきりしていて、選んだ曲に自信もあったから」と彼女は振り返っています（The JoongAng（中央日報）同記事）。
コンセプトは、「自然体、ノスタルジー、等身大」
ミン?ヒジン氏がプロデュースするNewJeansのコンセプトは、次のように分析されています。同グループの大きな魅力はなんと言っても自然体であどけない可愛さとキラキラと輝いているまっすぐな姿。それを見た人々/ファンたちは学生の頃の素直で淡いノスタルジーに引き込まれます。
NewJeansから浮かび上がるアイドル像は、（K-POPアイドルの従来の成功方程式である）強さや美しさ（たとえば、メンバーが一糸乱れない完璧なダンス）を誇示するのではなく、むしろ等身大の姿を表出させ、多様な人々の在り方を肯定する姿勢です（「FASHIONSNAP」[2023年3月31日記事]）。
あえて、NewJeansのプロデュース戦略をマーケティングの文脈で捉えれば、顧客がすでに好きなものや思い出のあるものを、商品?サービスに関連付け、共感を生む手法の「ノスタルジア?マーケティング」に分類できるでしょう。「ノスタルジア?マーケティン」といえば、1990年代/2000年代の「ファッション」を通して、大衆のノスタルジーに訴えかける「Y2Kファッション」も依然として注目されています。
米国の人気アニメ『パワーパフガールズ』とのコラボでZ世代をつかむ！
もう少し、NewJeansの戦略を掘り下げてみましょう。桑畑 優香氏、八田 靖史氏、まつもと たくお氏、吉野 太一郎氏の4人の専門家による共著『韓流ブーム 』（2024） [ハヤカワ新書]が、NewJeansの優れた戦略について明快に分析しています（pp. 150-152）。同書などをもとに戦略の詳細を紹介しておきましょう。
(1) 楽曲『ETA』（Estimated Time of Arrival）は、1980年代のブラジルの「バイレファンキ」（ダンス系音楽）のレトロ感と大衆的なサウンドを、現代風かつおしゃれにリメイクして、アジアのガールズグループが楽しげに歌って踊って世界に発信するという高度な戦略が採用されている。
(2) NewJeansは、米国の人気アニメ『パワーパフガールズ』（THE POWERPUFF GIRLS）ともコラボした。『パワーパフガールズ』は、日本の『アンパンマン』『ドラえもん』のような存在。米国の20代の若者たちが幼い頃に親しんだ『パワーパフガールズ』をきっかけにして、NewJeansに興味を抱く「Z世代」（1990年代後半から2000年代に生まれた世代）も多いといわれている。
(3) NewJeansのデビュー曲『Attention』は、ビジュアルも含めて、1990年に席巻した日本ガールズグループ「SPEED」を彷彿とされるという評価も少なくない。こうした特徴は「ノスタルジー」につながっている。
日本の中高年男性層が「NewJeans」に沼る！
(4) 「邦楽/洋楽」をそれなりに聴いてきたと自負する層に刺さるレトロ感のある「音楽的な仕掛け」。アイドル好きにもアピールするビジュアル。若い女性世代は親近感がわき、ダンスを真似したくなる。従来のK-POPを知らなくても、純粋に楽しめる「敷居の低さ」。こうした仕掛けにより、幅広い層?世代がNewJeansに興味を抱く現象が生まれている。
(5) ちなみに、これまでK-POPを素通りしてきた日本の中高年男性層が、「NewJeansは別格！」と興味を抱き「沼」にハマる事象も発生している。「沼にハマる」（「沼る」）とは、「何かにどっぷりハマって、いつの間にか夢中になっていること」を指します。ドロドロの「沼」にハマって身動きが取れずどっぷり浸（つ）かる状況を表現。
(6) 自然体をアピールしながらも、高いダンススキルで踊りこなし、楽曲は緩くてファッションも前衛的なグループは、K-POPでは稀有の存在。容姿端麗なメンバーが、緩めの楽曲を自然体で踊りこなしている点が、K-POPの最先端の理想像に重なっているという分析もあります。
なお、高いダンススキルの前提として、「体幹」（たいかん）の強化は「マスト」（must）です。セパレートの衣装から見え隠れするNewJeansメンバーの「11字腹筋」から、相当厳しい体幹トレーニングを積んでいることがわかります。「11字腹筋」とは、腹直筋、腹斜筋などの腹筋群を鍛えた結果お腹に「11のような縦線」が入ることに由来。
NewJeansの「逆張り戦略」
ここまでNew Jeansの躍進とその戦略を見てきましたが、同グループの戦略は「逆張り戦略」に整理できると思います。
「逆張り戦略」（contrarian strategy）とは、群れ（the herd）に従わず、皆がやっていることと「反対のこと」をすること。もし自社が住宅メーカーで、競合他社が大規模な（大量生産型）「マックマンション」（McMansion）を建設しているのなら、小規模な住宅を建設し、初めて住宅を購入する人や低所得者のニーズを満たすことが想定できます。飲食業で競合他社がセルフサービス式にするなら、自社はフルサービス式を導入する。
ダイエット?アイスクリームが流行しているなら、大きな具（チャンク、chunk）がゴロゴロ入っている「BEN&JERRY’S」(ベン＆ジェリーズ、2020年3月日本市場撤退)のようなフルフレーバータイプの高級アイスクリームを開発/販売する。すべての自動車メーカーがガソリンエンジン車を生産しているなら、テスラ社（Tesla社）の電気自動車を開発する。
最も素晴らしい発見、進歩、新規ビジネスのいくつかは、異なる考えを持ち、逆張りのアプローチをとった人々によって生み出されてきました。したがって、みんな、あるいは業界の多数がやっていることと反対のことを考え、実施することを恐れてはいけないのです。
イノベーターが陥りがちな「4つの罠」を回避する！
ドイツの国際ビジネススクール欧州経営技術大学院（ESMT、ベルリン/ケルン拠点）のチェンウェイ?リュウ教授（Chengwei Liu、戦略/行動科学/グローバルオンラインMBAディレクター）は、経営学雑誌『ハーバード?ビジネス?レビュー』（2021年9月22日）において、「賢明な逆張り戦略家になる方法」（How to Be a Smart Contrarian）について次のように論じています。
「既存のイノベーター（革新者/企業）が陥りがちな罠が4つある。第1に、マネジャーが支配的な論理にとらわれて意思決定をしてしまい、支配的な論理に逆らうことで生まれるイノベーション（革新）の機会を逃してしまうことだ。 第2に、成功した現職（特に現状を作り上げた場合）は、自分たちの見識やネットワークを過信するあまり、自分たちの知らない賢い新しいアイデアを見逃してしまう危険性がある。」
「第3に、自分と同じような人材に頼りすぎて、多様性がもたらす創造性の配当（恩恵）を無視してしまう。第４に、支配的なモデルに根ざした支配的な文化に縛られ、標準的な慣習から逸脱する人々に社会的な罰則を課し、創造性の芽をつぶしてしまっている可能性がある。」
まさに、ミン?ヒジン氏のNewJeansのプロデュース戦略は、既存のK-POPの成功方程式が陥るかもしれない上記の「４つの罠」を回避する「逆張り戦略」だと位置付けることができるのです。
プロデューサー兼ディレクターのミン?ヒジン氏に率いられた「NewJeans」の見事な活躍ぶり。それをリアルタイムで目撃している日本のビジネス界でも、「逆張り戦略」の意義/効果について再注目する必要がありそうです。でも、そんな難しいことを抜きにして、まずは、純粋に「NewJeans」の楽曲やパフォーマンスを楽しむ。それが、いちばんです。
