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時価総額世界第1位、「神の目」をもつ半導体メーカー「NVIDIA」(エヌビディア)のどこがすごいのか?そもそもCPUとGPUの違いは?

2024.07.09

時価総額世界第1位、米国シリコンバレーの半導体メーカー『NVIDIA』(エヌビディア)。いったい同社のどこがすごいのか?設立の経緯は?主要事業と今後の戦略は?そもそもCPUとGPUの違いは何か?NVIDIAとAI革命の関係は?

NVIDIAの時価総額が世界第1位に!

2024年6月5日、米国/世界の経済/金融/IT界に大きなニュースが駆け巡りました。米「エヌビディア」(NVIDIA)の時価総額が、3兆ドル(約468兆円、なお日本のGDPは約590兆円)を突破し、米アップル(Apple)を抜いて米マイクロソフト(Microsoft)に続く世界第2位になったのです。3兆ドルの大台に乗るのは、アップル、マイクロソフトに次いで史上3社目。この3社すべてが米国企業です。なお、現在、時価総額の世界第4位がアルファベット(Alphabet、Googleの親会社)、第5位がアマゾン(Amazon)です。

そして、なんとその約2週間後の6月18日、NVIDIAの時価総額は3.3兆ドル(527兆円)に達し、マイクロソフトを抜いて「世界No.1」に躍(おど)り出ました。

時価総額におけるNVIDIAの躍進の背景には、生成AI(人工知能)の開発/処理に使う半導体(GPU)の需要拡大があります。日本経済新聞(2024年6月19日夕刊)は、このニュースに「GAFAと主役交代」という見出しをつけました。GAFA(ガーファ)とは、アメリカの巨大IT企業(Big Tech)4社(Google、Apple、Facebook [現Meta]、Amazon)の頭文字をとった合成語です。

「時価総額」(Market Cap or Market Capitalization)とは、企業の発行済み株式総額のこと。発行済み株式数と株価を掛け合わせれば、その企業の現在の時価総額が計算できます。

時価総額とは、基本的に、企業の価値を金銭(ドル、円)で簡単に推定したもので、企業価値と規模を素早く推定するシンプルな一般的な指標。時価総額に着目することで、投資家は株式市場(世の中)がその企業にどれだけの価値を認めているのかが理解でき、当該企業を評価することができるのです。

NVIDIAの時価総額が世界第1位になったということは、世界の投資家やITビジネス界が、同社を世界第1位の「超優良企業」として評価していることを示唆しています。

 NVIDIAのGPUの世界市場のマーケットシェアは約8割

NVIDIAの主力商品は、(後ほど説明する)GPU(Graphics Processing Unit、画像処理半導体)。1999年に同社が開発したコンピューターの画像処理装置で、高速なグラフィック処理を得意とします。このGPU(ジーピーユー)の世界市場の約8割をNVIDIAが占有。このため、同社は「GPU半導体の覇者」とも表現されます。競合企業は、Intel(インテル)とAMD(アドバンスト?マイクロ?デバイセズ)など。

NVIDIAは「ファブレス企業」で、同社は半導体(GPU)の開発/設計に集中し、それを製造しているのは、台湾の「ファウンドリ」(半導体受託生産企業)のTSMC(ティーエスエムシー)です。(後ほど触れる)NVIDIAの最高経営責任者(CEO) ジェンスン?フアン氏も「TSMCがなければ、エヌビディアもなかった」とコメントしています。TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing Company)は、最近、日本の熊本県菊陽町に半導体工場を建設(投資額約1.3兆円)したことでメディアでも大きく注目されています。

「ファブレス」とは、製造のための自社工場を持たないメーカーのこと。「fabless」は「工場」(fab: fabrication facility)がない(less)という意味。「ファウンドリ」(foundry:鋳造所、半導体製造工場)とは、NVIDIAのような他企業からの委託を受けて製品の生産を専門とするメーカー。

世界の産業/マーケット統計情報サイト「statista」によれば、2024年時点で、GPUの世界の市場規模は653億ドル(9.8兆円)です。2029年には2,742億ドル(41兆円)に拡大し、2024年から29年までの年平均成長率(CAGR)は33.2%になると予測されています。GPUビジネスが急成長を期待されていることがわかります。

 「NVIDIA」は、羨望、ビジョン、神の目、比類なき視覚体験という意味

社名の「NVIDIA」(エヌビディア)にはどのような由来があるのでしょうか。英語の発音は「エンビディア」「インビディア」に近い感じ。ラテン語で「羨望」(envy、せんぼう)を意味する「invidia」(インビディア)と、同社が早くからファイルラベルに使用していた頭文字の「NV」(next vision、「次のビジョン」)の2つを組み合わせたものだとされます。また、その響きが「ビデオ」(video)に似ていることも理由のひとつのようです。

同社は、マーケティングを含め、言葉遊びや象徴主義を重視しているとされます。羨望とビジョンは、神話において密接な関係を持ち、両者は「目」をシンボルにしています。「目」のデザインがNVIDIAのロゴマークに採用されている理由はそこにあります。「すべてを見通す神の目」という意味にくわえ、NVIDIAの「目」は、常に革新と未来を探し求め、誰もが「羨望」するような比類なき視覚体験を創造するグラフィックス会社になるという決意を表明しているのです。

ジェンスン?フアン氏の総資産額は16兆円?

NVIDIA は、1993 年 4 月 5 日、ゲームとマルチメディア市場に 3D グラフィックスをもたらすというビジョンを持って、次の3人によって誕生しました。スタンフォード大学大学院出身でAMD(アドバンスト?マイクロ?デバイセズ)出身のコンピューターエンジニアのジェンスン?フアン(Jensen Huang)氏。サン?マイクロシステムズ出身のコンピューターエンジニアのクリス?マラコウスキー(Chris Malachowsky)氏、とIBM/サン?マイクロシステムズ出身のカーティス?プリエム(Curtis Priem)氏。ちなみに、『フォーブス』(Forbes)誌は、NVIDIA現CEOのジェンスン?フアン氏の総資産額1,066億ドル(16兆円)と推計しています。

NVIDIAの拠点は、インテルなどの世界中のハイテク企業が集中する「シリコンバレー」、米国カリフォルニア州サンタクララです。

友人3人がファミレス「デニーズ」でNVIDIAの設立を相談

1993 年、友人であった創業者 3 人が、ファミレスの「デニーズ」(Denny’s)に集合。PC でリアルな 3D グラフィックスを実現するチップを作ろうと話し合いました。フアン氏は次のように当時を振り返ります。「シリコンバレーの中心部、人通りの多い大通りのすぐそばにあるデニーズは、ビジネスを始めるには絶好の場所でした」「コーヒーが飲み放題で、誰にも追い出されることはありませんでした」。

ジェンスン?フアン氏は、記者会見や講演では「黒い革ジャン(パー)」を着ることが多く(20年来着用)、彼のトレードマークとなっています。また、彼は、来日時には、マイルド味の豚骨ラーメンが人気の「九州じゃんがら」赤坂店(東京港区)をよく訪れるそうです。フアン氏は腕時計をしないことでも有名。その理由は、「今」(Now)が一番重要で、そこに集中することが最も大切であるという彼の信念。

好きな曲は、レディー?ガガ(Lady Gaga)の『Hold My Hand』

フアン氏が、ショート動画サイトTikTok(2022年11月7日)で、女性2名のストリート音楽ライブの撮影に「飛び入り」参加。レディー?ガガ(Lady Gaga)の『Hold My Hand』(トム?クルーズ主演映画『トップガンマーヴェリック』 主題歌)がいい曲だから、聴いて歌ってみてと、二人にすすめる様子が拡散されています。世界的に著名なNVIDIAのCEOであるジェンスン?フアン氏のフレンドリー、そして気さくで、人なつこい魅力的な性格が伝わってくる動画です。

NVIDIAは、創業年の1993年、セコイア?キャピタルなどのベンチャーキャピタルから2,000万ドル(30億ドル)の初期投資を確保。6年後の1999年に株式公開(IPO)。株式公開時の1株あたりの価格は12ドル。2024年6月7日付で株式分割(10対1)された価格は121ドル/株。2023年は、売上高609億ドル(9.1兆円)、当期利益297億ドル(4.5兆円)、株主資本利益率(ROE)は91.5%という超ハイレベルの業績を堅持。

当初は、ビデオゲーム用の半導体に注力

同社は当初、グラフィックスベースのコンピューティングとビデオゲームに、事業の重点を置きました。その結果、同社は、「マルチコア」(複数の処理を並列実施)と「並列処理速度」に優位性を持つGPU技術のパイオニアとなりました。同社が株式公開を果たした1999年、エヌビディアは「GeForce 256」(GPU:画像処理装置)をリリースし、マイクロソフトのゲーム機「Xbox」(エックスボックス)のハードウェア開発契約を獲得。エヌビディアはこのプロジェクトで2億ドル(300億円)の前金を受領。ここから、NVIDIAの快進撃がスタートします。

NVIDIAのGPUは、オンラインゲームやeスポーツ用のゲーム専用PCに活用されています。製品としては、「GeForce」(ジーフォース)や「Quadro」(クアドロ)などの「グラフィックカード」が有名です。このグラフィックカードの使い方は、PCケース(PCの各部品を収めている箱)を開けて、マザーボード(パソコンの様々なパーツを接続する土台となる基盤)に取り付けます。

グラフィックカード(グラフィックボード、グラボ)とは、主にパソコンのグラフィック処理を担当する拡張ボードを意味します。一般的にゲーム用PC内のCPU(中央演算処理装置)に内蔵されたグラフィック機能よりも高性能で、3Dゲームや動画?画像編集などをストレスなく楽しむには必要不可欠なパーツです。

新型コロナ感染拡大の影響で、ビデオゲーム人口が拡大。さらには、世界の若者たちの間での「eスポーツ」人気の爆発。こうした要因が、NVIDIAの好業績をさらに後押ししていきました。

「ChatGPT」による生成AIブーム到来

2012年、AIによる画像認識の精度を競う大会「ImageNet」で、NVIDIAのGPUを使って深層学習(ディープラーニング、Deep Learning)をしたAIが、圧倒的な差をつけ優勝。(後ほど説明するとおり)CPU(中央演算装置)に比べ、大量のデータを並列処理できるGPUの特性が、AIの性能を飛躍的に高めることが認められたのです。

さらに、生成AI「ChatGPT」が、2022年11月に公開されるや否や、瞬く間に世界中を席巻して、今日の生成AIブーム(あるいは「生成A I革命」)にいたっています。生成AI(Generative AI、ジェネレーティブAI)とは、テキスト、画像、音声、合成データなど、さまざまな種類のコンテンツを生成できる人工知能技術の一種。その「ChatGPT」の頭脳を司るのが、NVIDIAの「GPU」であり、NVIDIAに世界中の注目が集まったのです。

「ChatGPT」(チャットジーピーティー)とは、米OpenAI(オープンAI)社によって開発された「人間との対話に近い自然な文章を生成してくれるAI(人工知能)チャットサービス」です。GPTとは「Generative Pre-trained Transformer」の略で、「事前学習をした、生成する変換器」という意味。よりわかりやすくいえば、「事前に学習されたデータをもとに文章を生成するシステム」。その機能は自然なテキスト生成に留まらず、翻訳、文章の要約、プログラミングコードの生成など多岐にわたり、2022年11月の公開時には、世界に衝撃をもたらしました。

CPUとGPUの違いとは?

そもそもCPUとGPUの違いは、どこにあるのでしょうか?IT/科学ライターの三津村 直貴氏が、IT/ビジネス情報サイト「ビジネス+IT」(SBクリエイティブ運営)上の記事で、とてもわかりやすく解説しています。三津村氏の知見などをもとにCPUとGPUの概要と相違を整理しておきましょう。

「CPU」(シーピーユー、中央演算装置: Central Processing Unit)は、コンピューターの頭脳でなんでもできる司令塔。「GPU」(ジーピーユー、Graphical Processing Unit:画像処理装置)は、画像処理に特化している演算装置。

CPUは、オールマイティ(全能)で、簡単な計算も複雑な計算もできます。ただし、その計算の仕方に特徴があり、簡単か複雑かに関係なく、順番に処理していきます。簡単な演算A →  複雑な演算B → 簡単な演算C → 簡単な演算D → 簡単な演算E????というように。このように順番に処理していくために、CPUは「連続的な演算処理に最適化された装置」と評されます。このとき、司令塔のCPUに多数の「簡単な演算」(A、C、D、E)を処理させることはかなり非効率になります。

GPUが、司令塔CPUに変わって単純演算を並列処理

ところで、画像処理の演算は「単純作業の塊」だそうです。「ディスプレイ上の1番のピクセルの色を赤色にしなさい」「2番のピクセルをオレンジ色にしなさい」という単純な司令(演算)です。CPUが本来担当すべき複雑な演算レベルを「数学者レベル」とすると、画像処理の演算は「中学生レベル」だと、三津村氏はたとえています。しかも、その中学生レベルの演算を、順番(連続処理)にやる必要はなく、同時並行(並列処理)で実施すればいいのです。

司令塔CPUの仕事(演算処理)から、単純な画像処理の仕事を引き取り、同時並行(並列処理)で処理する役割を担っているのが、まさにGPUなのです。

三津村氏は、「汎用性を高めたGPGPU」(General Purpose computing on Graphics Processing Units)に関しても説明を続けます。GPGPUは、画像処理以外の演算を担当するGPU。実は、現在、注目されているビッグデータや機械学習(machine learning、マシーン?ラーニング)には、その処理に無数の単純計算(演算)が含まれています。そうした単純演算を、司令塔であるCPUに担当させるのではなく、並列演算(処理)が得意な別の種類のGPU(画像処理以外を担当)、つまりGPGPUに任せることにより、CPU単独で仕事をする場合に比べて、処理速度(パフォーマンス)は数倍以上に向上するそうです。

GPGPUを、人工知能、生成AI、自動運転の分野で活用

こうしたGPU(GPGPU)の長所を理由として、NVIDIAのGPUが、人工知能、生成AI、自動運転の最先端領域で「引く手あまた」になっているのです。このGPGPUの登場により、スーパーコンピュータでなければ実施できなかった複雑な計算を極めて低コストで行えるようになりました。

これまで、研究分野など大量かつ複雑な計算処理を行う場合には、スーパーコンピュータを利用することが一般的でした。ところが、スーパーコンピュータは非常に高価であり、1ラック(棚)あたり約5,000万円程度の費用がかかるともいわれています。

一方、GPGPUを使って、スーパーコンピュータと同様の計算処理をした場合、極めて低コストになります。GPU単体で高性能なものは約20万円。

以上のように、いまや、NVIDIAは、画像処理用のGPUだけでなく、AI(人工知能)用半導体の市場を支配し、自動運転システムの開発にも参入する「半導体の覇者」ともいえる存在なのです。

識者や専門家の中には、NVIDIAは自社の製品(ソフト/ハード)にもとづき巨大な「ビジネスエコシステム」(business ecosystem)を形成していると指摘する者もいます。

「ビジネスエコシステム」(ビジネス生態系)とは、本来は「生態系」を意味する英語「ecosystem」をビジネスに当てはめた表現です。中心的な企業が核となり、複数の企業や団体がパートナーシップを組み、それぞれの技術や強みを生かしながら、業種?業界の垣根を越えて共存共栄するビジネスの枠組み/仕組みのこと。Apple社のビジネスの枠組み(ハード/ソフト)も、「ビジネスエコシステム」の好例としてよく言及されます。

ロボット産業では人型ロボットの開発が主流になるのか

2024年3月19日、NVIDIA主催のプライベートイベント「GPU Technology Conference 2024(GTC2024)」(カリフォルニア州サンノゼ)において、NVIDIAのCEO、ジェンスン?フアン氏は、「GR00T」(ジーアール?ゼロ?ゼロ?ティー)プロジェクトを発表しました。「Generalist Robot 00 Technology」の略である「GR00T」 を搭載したロボットは、自然言語を理解し、人間の行動を観察することで動きをエミュレート(emulate:模倣)するようにデザインされており、現実世界をナビゲート(移動?行動)し、適応しつつ、対話するための調整能力、器用さなどのスキルを迅速に学習することができます。

このとき、フアン氏は基調講演で次のような意見を披露しました。「一般的なヒューマノイド?ロボット(人間型ロボット)の基盤モデルの構築は、今日の AI で解決すべき最もエキサイティングな課題の一つだ。世界中の一流のロボット研究者が人工汎用ロボティクスに向けて大きな飛躍を遂げるために、実現可能なテクノロジーが集結しつつある」

フアン氏は、さらに、「次のロボット産業は人型ロボットの開発が主流となり、将来的には安全面の観点から動くものは全てロボットに置き換わっていく」と語りました。

人型生成AIロボットと「シンギュラリティ」の到来

人工知能(AI)の権威、レイ?カーツワイル(Ray Kurzweil)氏は、「2029年にAIが人間並の知能を備えるようになり、2045年には『技術的特異点』(シンギュラリティ、Technological Singularity)が訪れる」と予測しました。「シンギュラリティ」とは、現時点で予測されているスピードでAIが進化を続けた場合、人工知能の性能が人類の知能を上回ると見込まれる瞬間点のことです。生成AIの登場で、シンギュラリティの到来は予想よりも早まっている、とされます。

「シンギュラリティとは、具体的には、人(ヒト)型生成AIロボットの普及した社会を意味しているのか?」「AIの能力が人間を超えたとき、世界は一体どんな社会になるのか?」「未来の『人間とAIの共生(symbiosis)』の姿はどのようなものなのか?その行き着く先は?」

AI時代のキープレイヤーの一つ、NVIDIAの今後の動向を注視していけば、これらの質問に対する解答の一部が見えてくるのかもしれません。

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