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マーケティング最前線!

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「楽しさ」の要素が入った人気プチプラコスメ「Fujiko」(フジコ)の発想法!

2024.03.12

 化粧品はデパコス、それともプチプラコスメ?

「化粧品はデパコス派かプチプラコスメ派か」という興味深い調査結果(2023年7月公開、回答者5,042人)があります。20~30代を中心に総フォロワー数145万人超えの美容コスメメディア「EMME」(エメ)を運営する株式会社gracemode (本社:東京都目黒区)が実施したものです。

「デパコス」は、「デパートコスメ」の略で、百貨店などで購入できる高級ブランドの化粧品(cosmetics)。「プチプラ」は「プチプライスコスメ」。「プチ/プティ」 (petit) はフランス語で「小さい」という意味があり、値段が安く、スーパーやドラッグストアなどで誰でも購入できるコスメ。

調査結果の第1のポイントは、「スキンケア」「ベースメイク」「メイクアップ」のすべてのカテゴリにおいて「プチプラコスメ派」のユーザーが約6?7割を占めていること。「23%」の回答者は、スキンケアで「どちらも使用」。

第2に、購入場所は、「91%」が「ドラスト(ドラッグストア)、バラエティショップ」と回答。自宅付近や最寄りにあり、値段的にも気軽に試せるため。

第3に、価格が高いデパコスを買う理由は、「64%」が「自分へのご褒美」。ほかにも、「見た目が可愛いものが多いのでテンションが上がる!」「みんなに自慢したい!」など。

第4に、プチプラコスメを買う理由は、「コスパの良さ」と回答した人が「66%」。「安い=質が悪い」のではなく、「安い×質が良い」を高評価。

第5に、「ベースはデパコスでメイクアップはプチプラ」と使い分け。どちらにも良さがあるからこそ、それぞれに需要が存在。 

「化粧品マーケティング」は他の消費財への応用範囲が広い!

矢野経済研究所によると、2022年度の日本の化粧品市場の規模(インバウンド需要を含む)は、前年度比103.5%の2.4兆円。2019年度(コロナ禍前)の市場規模(2.6兆円)と比べると、未だ復活の途上にあります。製品カテゴリー別(2022年度)にみると、スキンケア市場が構成比47.3%(1.1兆円)と最も高く、ヘアケア市場は同20.3%(4,810億円)、メイクアップ市場が同17.6%(4,170億円)、男性用化粧品市場は同5.4%(1,290億円)、フレグランス化粧品市場が同1.2%(292億円)となっています。

一般的に、化粧品市場には他の商材と大きく異なる特徴がいくつかあります。第1が「化粧品には、医療、アパレル、食品、文具、雑貨など、あらゆる商材の要素が含まれていること」。したがって、化粧品マーケティングの経験/知識は、他のほとんどの商材に広範囲に応用できるといわれています。

第2が化粧品の原価率は20~30%程度で「水を売っているビジネス」「究極の『水』商売」と表現されます。ただし、原価率が低いとはいえ「コモディティ化」(低価格化)している商材も多く、難易度が高いビジネスだとされます。第3が商品の魅力を伝えて差別化するために広告や人件費など販売管理費が高くなります。

こうした化粧品産業のなかで、ありそうでなかったユニークな「プチプラコスメ」で「Z世代」(1990年半ばから2010年代前半生まれ)や「ミレニアル世代」(1980年から90年半ば生まれ)を中心にヒット商品を連発している新興ブランドがあります。それが「Fujiko」(フジコ)です。 

「Fujiko」を事業展開するのは、東京都渋谷区恵比寿にある株式会社「かならぼ」(代表取締役:和田佳奈氏、従業員数24名)。同社は、「Fujiko」にくわえ、アイドルグループ「NMB48」の元メンバー吉田朱里氏がプロデュースするコスメブランド「b idol(ビーアイドル)」やメンズコスメブランド「MENCOS」(メンコス)なども手掛けています。

「ファブレス企業」とは?

「かならぼ」社は、いわゆる「ファブレス」企業に分類されます。ファブレスとは、製品製造のための自社工場を持たないメーカーのこと。「fab」(fabrication facility: 工場)が「ない」(less)メーカーの意味で、「ファブレス」(fabless)と表現されます。ファブレス企業として、アップルや任天堂がよく例に出されます。

「かならぼ」ブランドの「Fujiko」や「b idol」は、若年層であっても手に取りやすい1,000円台の商品が多く、「価格訴求力」があります。ユニークさ、機能性、デザイン性などの「商品開発能力」や、高頻度で新商品が発売されるという「飽きの来ない」商品展開力も優れています。くわえて、ドラッグストアやバラエティーストアなどで入手できる高い「利便性」。こうしたマーケティングの要素の相乗効果により、ブランドの独創性(オリジナリティ)が生まれ、連続的なヒット商品につながっています。 

「Product」」(製品?サービス)、「Price」(価格)、「Place」(流通?店舗)、「Promotion」(販促?広告)という既存の「4P」に対して、後ほど触れる「楽しさ」を5つ目の「Popularity」(人気?大衆性)として整理すれば、マーケティングの「5P分析」からも「かならぼ」社の戦略が「秀でている」ことがわかります。

「身近な感じ」と「日本らしさ」をイメージさせるブランド名「Fujiko」

複数のインタビュー公開記事によれば、和田佳奈社長は大手メーカーに比べれば、宣伝力や資金力に制約があり、有名人が関わったブランドでもなかったので、勝負するなら「モノ」しかないと考えました。そこで、まずはブランド名を覚えてもらうことを重視し、「人の名前」がいいと判断。ブランド的には「身近な感じ」が出せ、「日本らしさ」も表現したいと思い、日本を代表する富士山の「フジ」と、名前をイメージしやすい「子」が入った「フジコ」(Fujiko)が採用されました。

「Fujiko」の人気商品のひとつに、「フジコ眉ティント」があります。「1回塗ると3日間眉毛が消えない」という機能性があり、2016年6月発売され、累計520万個を販売(2023年1月末時点)。

この「フジコ眉ティント」を使えば、自分の眉に、カラーパックを塗って、乾燥させ、はがすだけの簡単な3ステップで「ナチュ眉」(ナチュラルな眉)が完成。これまでのアイブロウカテゴリー(眉を整える化粧品)に存在しない「斬新さ」と「機能性」が注目され、発売から半年たたずして「2016年ヒット商品ベスト30」(「日経トレンディ」)にランクインし、1年で110万個を売り上げました。 

「ティント」は、「tint」(染める?色合い?ほんのり色付ける)に由来。もともとは韓国のリップ系コスメのこと。唇の上に色をのせるのではなく、唇自体を染めているため、メイク崩れや色移りがしにくく、長持ちしやすいという特徴があります。

 人気タレント「イモト アヤコ」さんの眉に似ている!

「Fujiko」ブランドの第1号アイテムは、塗ってはがすリップティント。和田社長が、その発売前に韓国の工場に出張したのは、韓国内で「日本ではまだ見たことがない」眉ティントが発売された直後。塗って剥がすリップと原理は同じ。すぐに工場に連絡し、半年後には「Fujiko」のコスメとして店頭に並びました。リップティントの発想を眉に「水平展開」したのが「フジコ眉ティント」なのです。

「フジコ眉ティント」(現在は「フジコ眉ティントSVR」税込み1408円)がヒットした要因のひとつとして、化粧品に「楽しい!」という感情的な価値観を含ませたことが評価されています。

(最終的には眉ティントを「はがす」のですが、)このティントを眉に塗って乾かすまでの工程(5~10分程度)の中で、「ユニークな眉」の状態になります。その眉の様子が、女優/お笑いタレントの「イモト アヤコ」さんの特徴的な眉に似ているということで、「#眉ティント」「#イモトアヤコ」などのタグ付けで「自撮り」画像がSNSに次々とアップロードされたのです。 

SNSの投稿では、塗り方を間違えても綿棒で簡単に修正できる点や、お風呂上がりに眉ティントを塗って翌朝の起床時にはがす手軽で楽しい手法も紹介されています。そうした巨大なクチコミ効果が、短時間でヒット商品に押し上げたとされます。

ユーザーは「フジコ眉ティント」の「塗って剥がす」という手軽さを高く評価しています。眉毛が全然ない、という利用者からは、「すごく助かっています」という感謝のコメント。「朝など眉を描く時間が減って助かる」「眉メイクが崩れてしまうスポーツジムやライブでも眉をキープできる」など喜びの声もたくさん届けられているそうです。

「自分自身」をマーケティング調査

和田社長によると、同社の経営の特徴は、2016年のブランド誕生以来、 マーケティング調査を一切行わないことにあります。その代わりに重視するのが、すべての新商品を企画する和田社長の感性。「Fujiko」を立ち上げるときに実施したのは、商品棚のチェックぐらいで、取引先の販路がプチプラコスメ(低価格コスメ)のゾーンだったので、同じゾーン内で、他にどんな商品があるのかを見て回った程度だそうです。

その和田社長の経営理念は、「大手の真似をするのではなく、痒いところに手が届く会社と商品作り」。美容情報に疎く、メイクを必死で研究するタイプでもなかった和田社長は、「自分自身」をマーケティング調査したそうです。

「時間がない中でも可愛くなれたり、時に唇をふっくらできたり、眉が数日消えなかったり、コスメに詳しくなくても、ワクワクなれる、だから使ってみたくなる、そんなコスメを提供できるブランドになったらいいな」。和田社長はそうした着想のなかで、「美容に憧れる人は多いけれど、本当にそれができている人はそんなに多くない。そして自分自身、大衆寄りであるということ。それなら私が欲しいものを作ればいいのではないか」という考えに至ったそうです。

 名プロデューサー秋元康氏「『大衆』とは自分自身である!」

ヒットを連発している和田社長の発想法をたどるなかで、次のような考えが浮かんできました。AKB48や乃木坂46など、日本を代表するヒットメーカーである、名プロデューサーの秋元康氏のアイデア発想法と何かしらの共通点があるのではないかと。

ヒットを生み出し続けている秋元氏には、新しいものを生み出すときに意識している鉄則が2つあるそうです。第1の鉄則が「『大衆』とは自分自身である」。「大衆」のひとりである自分自身が見たいと思わないものは作らない。第2の鉄則が「記憶に残る幕の内弁当はない」。秋元氏は次のように投げかけます。「今までで一番おいしかった幕の内弁当って思い出せます?」「一点突破にしないと。(人がエッと驚くような)単品主義にしないとダメだと思いますね」(2022年12月4日放送『日曜日の初耳学』(毎日放送/TBS系列)。 

つまり、秋元康氏が「ヒットの鉄則」として強調するのは、「誰よりもまず自分自身が見たいと思える企画を作り、他と明確に差別化できる単品主義が鍵になる」ということです。この鉄則は、「自分の欲しいコスメで、かつ、他の競合化粧品と明確に差別化された『今までにないもの』」を企画する「Fujiko」のブランド哲学とピッタリ重なります。

「キレイになるって楽しい」をコンセプトにした「いま欲しいを叶える」コスメブランド「Fujiko」。見た目や使い方、中身の面白さなど、使うたびにときめくような楽しさの要素が、商品のどこかに必ず入っている。「Fujiko」のマーケティングの流儀から、ビジネス全般にわたって貴重な教訓を導き出すビジネスパーソンは少なくないでしょう。

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