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マーケティング最前線!

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急成長を続ける「スリープテック市場」と「ポケモンスリープ」(Pokémon Sleep)

2024.04.03

2023年7月の配信開始から約1ヶ月で1,000万ダウンロードを達成。急成長している「スリープテック市場」の背景と、睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」(Pokémon Sleep)の人気の理由と今後の可能性について考えてみます。

「睡眠で休まった感覚」が十分でない日本人は2割以上

(唐突な質問ですが)みなさんの平均睡眠時間はどのくらいですか?

経済協力開発機構(OECD)が世界33カ国を対象に行った調査(2021年)では、日本人の1日の睡眠時間は7時間22分で最低となり、全体平均の8時間28分よりも1時間以上少ないことがわかりました。ちなみに、米国の平均睡眠時間が8時間51分、イギリスが8時間28分、ドイツが8時間18分。

厚生労働省の調査(2018年)によると、「休養感」(睡眠によって休まった感覚)が十分に取れていない日本人の割合は23.4%となっており、増加傾向が続いているようです。

「休養感」の低下は不良な健康状態に関係することが明らかになっています。厚生労働省によると、「休養感の低下」は、肥満、心筋梗塞、高血圧などの身体疾患やうつ病などの精神疾患のリスクに関係することが分かっています。さらに、疲労感、眠気、記憶力の低下、不安、イライラといった症状を伴いやすく、生活の質(QOL)を低下させる要因となることも報告されています。

良質な睡眠を確保するという社会的な課題を受けて、現在、「スリープテック」ビジネスに大きな注目が集まっています。「スリープテック」(Sleep Tech)とは、睡眠(Sleep)と技術(Technology)を合成した言葉で、AIやITなどのデジタル先端技術を使った睡眠改善を目的とした製品やサービスのことをいいます。

情報サイト「Global Market Insights」によると、世界のスリープテックデバイス市場規模は、2022年に179億ドル(2.67兆円)を突破し、2023年から2032年にかけて年平均成長率(CAGR)18.2%で拡大し、2032年に952億ドル(14.2兆円)に達すると予想されています。

睡眠ゲームアプリ「ポケモンスリープ」登場!

このスリープテック市場で、現在、大いに注目されているのが、2023年7月20日に配信開始された「ポケモンスリープ」(Pokémon Sleep)です。簡単にいえば、自分の睡眠時間や深度を計測しながらポケモンの寝顔を集める睡眠ゲームアプリです。株式会社SELECT BUTTONと株式会社ポケモンが開発/運用しています。

モバイルデータ分析会社data.aiによると、2023年7月16日からの1週間で、最も多くダウンロードされたゲームで、約1ヶ月後の同年8月25日には1,000万ダウンロード達成しました。

ポケモンスリープの舞台は、大きな「カビゴン」(いねむりポケモン)のいる小さな島。ユーザーは、ここでネロリ博士と一緒にポケモン(ポケットモンスター)の寝顔を研究します。夜は睡眠を計測、朝はポケモンの寝顔を集め、昼は、カビゴンを育てる。これが、ゲームのサイクルで、いわゆる「放置系ゲーム」です。放置系ゲームとは、ゲームをプレイしながら何もしない状態が続いても自動的に進行するゲームのこと。

昼は主役のカビゴンに「きのみ」を与えたり、料理をつくってあげたりすることで「カビゴンエナジー」が貯まり、カビゴンが育っていきます。カビゴンエナジーを貯めると、翌日の「ねむけパワー」も多くなり、カビゴンの周りに、「かわいい寝顔のポケモンたち」が数多く集まってきます。

「ポケモンスリープ」は「やりこみ要素」も十分!

このポケモンスリープに登場するポケモンは全部で104種類。寝顔図鑑を完成させるためには合計400種類の寝顔を集める必要があるそうです。「やりこみ要素」(達成感を得るためにとことん追求できる余地)も十分なゲームだと評価されています。

ユーザーは、眠る前にアプリを起動しスマートフォン(充電状態)を裏側にふせて枕元に置きます。スマートフォンに内蔵されているマイクと加速度センサーにより、睡眠中の寝返りなどの体動を記録し、イビキ?寝言を録音します。

ユーザーは「ねむる」のボタンを押すだけのとてもシンプルな仕組みで、睡眠時間と睡眠リズムを組み合わせ、計測した過去の日?週と比較し、睡眠を分析してくれます。翌朝、目覚めた後、睡眠計測の結果に応じて集まったポケモンの寝顔をリサーチすることで、ポケモン寝顔図鑑の完成を目指すというゲームとなっています。

計測した睡眠データをもとに睡眠タイプが診断され、「うとうと」「すやすや」「ぐっすり」の3つのパターンに分類。睡眠タイプによって出現するポケモンが変化。睡眠時間の長さや質が良いと、睡眠スコアが高くなり「ねむけパワー」を多く獲得。この「ねむけパワー」の多さによって、ポケモンの集まり具合が変化します。しっかり睡眠をとることで、多くのポケモンたちと出会えます。つまり、睡眠の質が高ければ高いほど、より多くのポケモンを集めることができるゲーム性が採用されています。

「基本プレー無料」(F2P: Free To Play)のゲームですが、アプリ内アイテムを購入してより多くのポケモンと仲良くなったり、プレミアム会員になることでボーナスポイントなどを獲得することができます。

ポケモンの人気とゲーミフィケーションの融合

「ポケモンスリープ」((Pokémon Sleep)は、ポケモンの人気とゲーミフィケーションを融合させたサービスです。ポケモンを集めるためにユーザーは街に出て自然に歩き回る「ポケモンGO」も同じ発想のゲームです。

「ゲーミフィケーション」(gamification)とは、さまざまなゲームの要素(参加者間の競争?協力、ユーザー自身の挑戦、達成感など)を、ゲーム以外の分野に応用することです。ゲーミフィケーションは社会的課題の解決にも応用されています。

米国イリノイ州シカゴでは河川を清掃するため、非営利組織Urban Riversによって、ゴミ収集ロボットを遠隔操作するオンラインゲームが活用され、世界中からインターネット経由で、河川の美化に参加する仕掛けが整えられまました。NPO団体WEF(Whole Earth Foundation)は「マンホール聖戦」というイベントで、ユーザーによる写真投稿などによって日本中のマンホールの状況を把握しインフラの安全確保に貢献する運動を展開しました。

前述のとおり、このポケモンスリープは、ゲーミフィケーションを使って、良質な睡眠を獲得するという社会的な課題を解決するためのサービスだといえます。

「眠っている時間」というブルーオーシャン市場

ゲーム評論家の卯月 鮎氏が、この「睡眠のゲーミフィケーション化」の背景を次のように、明快に分析しています(情報『日刊SPA!』2023年3月19日記事)。

第1が、技術の進展により、睡眠の計測?データ化が容易かつ一般的になっている点です。現在、スマホやリストバンド型デバイスによる睡眠状態の計測が浸透しつつあります。「加速度センサー」と「寝息の録音」などによって、睡眠時間、レム?ノンレム睡眠のリズムなどが計測でき、睡眠の質が測れるようになっています。一般に、スマホの加速度センサーは、スマホがどれくらい傾けられたか、動いたか、振動したかを検知し、また、画像の手ブレ補正や画面の回転などを制御しています。そうした加速度センサーを使うことで、睡眠の数値化?データ化も容易になりました。つまり、睡眠の計測?データ化は、スマホを使ったゲーミフィケーションと相性がいいのです。

第2が、1日24時間をターゲットにして、各企業/ビジネスが「時間のパイ」を奪い合う状況が発生していることです。特に人が起きている時間に対して、YouTube/TikTok/InstagramなどのSNS、Netflixなどの動画配信、マンガ配信サイトなど、さまざまなデジタル系娯楽が、「覚醒時間」のパイの争奪戦を繰り広げています。そのため、人の覚醒時間は、ある種の「レッドオーシャン」(競争がきわめて激しい既存市場)になっています。

そうしたなか、睡眠時間帯は、これまで「ブールーオーシャン」(競争相手が少なく未開拓な市場)でした。その「平和な青い海」のような未開拓マーケットに、良質な睡眠の獲得という社会的な課題の解決策を提示するためにゲーミフィケーション型サービスとして参入したのがポケモンスリープなのです。

ポケモンのゲーミフィケーションと「優良健康サービス」

米国などに比べるとゲーミフィケーション?ビジネスでは日本はやや遅れているという評価もあります。この「ポケモンスリープ」をケーススタディにして、たとえば、教育や環境問題など、デジタル技術を使って楽しく効果的に社会問題を解決していくような新しい取り組みやビジネスが日本でも活発になることが期待されます。

最後に、KDDI総合研究所招聘研究員の髙山史徳氏の評価を紹介したいと思います。「健康の3大要素のうち、『ポケモンGO』と『ポケモンスリープ』で、運動と睡眠の課題に取り組んだので、近い将来、栄養に関して、『ポケモンEAT』のようなアプリが誕生する可能性がある。つまり、ポケモンはあらゆる世代に通用する『優良健康サービス』に進化する潜在力を持っている」。

社会問題を解決し日常生活を豊かにするための、ポケモン活用型「ゲーミフィケーション」への期待がさらに高まります。

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