1870年(明治3年)、横浜で日本のビールが誕生!
明治政府による中央集権化のひとつ「版籍奉還」(はんせきほうかん)の翌年の1870(明治3年)年。横浜?山手の丘に日本初のビール醸造所「スプリングバレー?ブルワリー」が誕生しました。その後、同醸造所を、ジャパン?ブルワリー社(岩崎弥之助、渋沢栄一らが出資)が買い取り、1888年にドイツ風ラガービール「キリンビール」を発売。その人気ビールの名を残して事業を引き継いだのが麒麟麦酒株式会社(現在のキリンビール株式会社)です。(『ヨコハマ経済新聞』)
「ラガー」とは「液体の下に沈澱する」発酵酵母によって醸造される「キレが良く喉越しすっきり」のビール。「エール」は、「液体の表面に浮き上がる」発酵酵母によって醸造される「フルーティーでコクのある」ビール。一般的にビールの味に関して、「キレ」は「後味スッキリ」、「コク」は「濃厚感や広がり、複雑さ」などを表現する場合に用いられます。
「自転車 + ビール」から生まれた「ビアバイク」
日本のビール発祥の地である横浜は、日本で一番クラフトビール醸造所が密集する街といわれています。「クラフトビール(Craft Beer)」とは、小規模なビール醸造所でビール職人が精魂込めて造っているビールのことを指します。
ちなみに、キリンビール社の調べによると、2021年1月~9月の日本のクラフトビールの販売量は、前年同期に比べて約200%と大きく伸長し、クラフトビール市場が急激な盛り上がりを見せています。「家飲み」需要の高まりとともに、クラフトビールは、今や「通だけが飲むビール」から、一般の人々にも認知されているビールになっているそうです。
日本のクラフトビールの集積地と呼んでもよい横浜市(神奈川県)で、「自転車 + ビール」から生まれた「ビアバイク」(Beer Bike)が人気を集め、「横浜みなとみらい」地区の地域活性化にも貢献しています。
この「ビアバイク」は、オランダ発祥の「移動式ビアカウンター」で、オランダ人が好きな自転車とビールを融合させたものです。運転席にはハンドルとブレーキのみが備え付けられ、エンジンはありません。現在、発祥国オランダにくわえて、アメリカやブラジル、チェコなど世界20か国で走っているそうです。
株式会社「横浜ビール」(横浜市中区)が所有?運営する「ビアバイク」には、ペダルを漕ぐ乗客6名のほか、運転手、ガイド、そして雰囲気を盛り上げてくれる演奏家(最後部座席)が乗車します。
「しいていえばビールが燃料」(笑)の「ビアバイク」?
「ビヤバイク」では、ビールを飲みながら複数の参加者が座席下にあるペダルを漕いで走ります。前述のとおりエンジンがないため自転車と同類の軽車両扱いで、ナンバープレートなしで公道を走ることが可能。
通常の自転車は、アルコール摂取後の利用は禁止されています。しかし、「ビアバイク」は、飲酒をしない運転手(会社スタッフ)がハンドルとブレーキを操作し、乗客6名はペダルを漕ぐだけなので、飲酒運転にはなりません。つまり、乗客は「同乗者兼動力」という位置付けです。
自転車なのでガソリンなどの燃料は不要。「しいていえばビールが燃料」(笑)という、とてもユニークな「乗り物」です。「ビアバイク」の走行速度は、早歩き程度の時速約5キロなので、ビールを飲みながら、横浜みなとみらいの景色をゆっくりと楽しめます。
『横浜ビアバイク』の顧客満足度は「98.7%」!
横浜ビール社によると、2021年10月より「横浜ビアバイク」ツアーとしてスタートしてから、約600名がツアーに参加しました。参加者(顧客)の満足度は、なんと「98.7%」に達していて、リピーターも続出とのこと。
「横浜ビアバイクツーリズム2023」の内容を紹介しましょう。ルート:Number Nine Brewery見学 → ビアバイク乗車(30分) → 横浜ビール見学?解散。集合場所:横浜ハンマーヘッド内「QUAYS pacific grill」(みなとみらい線「馬車道」駅 徒歩10分)。解散場所:横浜ビール「驛の食卓」(JR線「桜木町」駅 徒歩3分)。所要時間は90分。参加費は 6,000円/1名(2023年7月現在)。
ペダルを一緒に漕ぐ共同作業で、参加者に一体感がうまれる!
「ビアバイク」の人気の理由を、横浜ビール社は次のように分析しています。第1が、横浜のクラフトビール7から8種類楽しめ、ビール醸造所を間近に体験できること。第2が、「非日常性」です。公道でビールを飲み、ガイドによる横浜観光案内と生演奏付きという非日常を体験できます。
第3の理由が、乗車した仲間と仲良く乾杯できることです。6人乗りの「ビアバイク」は、1人参加でも仲間同士でも、参加者みんなが仲良くなれます。ツアーのスタート時に乾杯。ペダルを一緒に漕ぐ共同作業の体験。醸造所、レストランで一緒にいることで会話が生まれ、ツアー終了の頃には、また一緒に飲みましょうという展開になるそうです。
この『ビアバイク』は、商品?サービスの購買自体が目的の「モノ消費」ではなく、その先にある体験を重視する消費行動を意味する「コト消費」の典型だといえます。
「既存の要素X」 + 「既存の要素Y」= 「新しいアイデアZ」
ところで、米国の実業家ジェームス?W?ヤング(James Webb Young)著の『アイデアのつくり方』(CCCメディアハウス、1988年)という有名な本があります。原書(『A Technique for Producing Ideas』)は「1965年の初版刊行以来、半世紀以上の歴史を持つ不朽の名著だ」と評価されています。
彼は、「アイデアとは既存の要素の新しい組み合わせ以外の何ものでもない」と主張します。ざっくりいえば、次の公式のとおり、アイデアは既存の要素の足し合わせで生まれるということです。
ヤングのアイデアの公式: 「既存の要素X」 + 「既存の要素Y」= 「新しいアイデアZ」
「とんかつ + カレーライス = かつカレー」「いちご + 大福餅 = いちご大福」
「クロワッサン + ドーナツ = クロナッツ」
「iPod + 携帯電話 = iPhone」「コンピューター(Mac) + ゴーグル = Apple Vison Pro」「テレワーク + 休暇旅行 = ワーケーション」????
数多くの人気商品のアイデアが、この公式に当てはまるのではないでしょうか。
?もちろん、横浜ビール社が活用しているオランダ発祥の「自転車 + ビール = ビアバイク」も、ヤング氏の「アイデアの公式」の成功例に含まれていることはいうまでもありません。