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超人気アニメ『【推しの子】』の主題歌、YOASOBI「アイドル」の世界戦略!

2023.08.03

「YOASOBI」の楽曲「アイドル」が米国ビルボード?グローバル?チャートで首位

音楽情報サイト『billboard JAPAN』によると、日本の音楽ユニット「YOASOBI」(ヨアソビ)の楽曲「アイドル」が、米国ビルボード?グローバル?チャート「Global Excl. U.S.」(2023年6月10日付)で首位を獲得しました。

同年5月末に楽曲「アイドル」の「英語版」がリリースされると、同チャートで6位から1位に急上昇。YOASOBIにとって同チャート初のNo. 1ヒットソングとなりました。くわえて、同チャートで日本語の楽曲が首位を獲得したのも「YOASOBI」が初めてという快挙。

この楽曲「アイドル」はテレビアニメ『【推しの子】』(TOKYO MXなど、2023年4月スタート)のオープニング主題歌です。5月26日から6月1日にかけて米国外でのストリーミングは4,570万回(前週比14%増)、ダウンロードは24,000DL(前週比39%増)を記録しています。 

 「アイドル」はアニメ『【推しの子】』のオープニング主題歌

アニメ『【推しの子】』は芸能界を舞台にしたサスペンス系アニメで、エンタメ業界の舞台裏(業界の慣習?用語を含め)のリアルな描写が話題を呼び、Twitterでも日本?世界トレンド1位を獲得した人気作品です。

原作者は、人気マンガ?アニメ『かぐや様は告らせたい』(集英社『週刊ヤングジャンプ』)の赤坂アカ氏、作画は横槍メンゴ氏。2023年5月末時点でコミックス累計発行部数(集英社同上)が900万部を突破しています。

動画配信Netflixでは、「田舎町で働く医者の前に突然現れた『推し』(おし)のアイドル。ある禁断の秘密を抱える人気絶頂のスターとの出会いをきっかけに、彼は芸能界という非情な世界に足を踏み入れていく。」という説明が付されています。

このタイトルの『推し』には、2つの意味があるそうです。第1が「好きなアイドルを推す」、第2が「推しているアイドルの子ども」という意味。

マンガ?アニメ『【推しの子】』はZ世代やそれより上の世代にもささる人気!

実の父は一体誰か。そして天才アイドルだった母を殺した犯人を探すサスペンス要素。芸能プロダクション経営の裏側。映画やドラマの撮影現場。映画監督の仕事。女性アイドル新生『B小町』の誕生ストーリー。恋愛リアリティーショーの舞台裏とネット炎上の鎮火のプロセス。アイドルの恋愛。

緻密な取材をもとに、サスペンス、転生(てんせい)もの、アイドル成長物語、ロマンティック?コメディー、エンタメ?ビジネス、SNSマーケティングと多様な要素が包含された質の高い内容となっています。Z世代の若者やそれよりも上の世代にも深くささる人気のマンガ?アニメだと評価できます。

 「YOASOBI」は「小説を音楽にするユニット」

では、主題歌を提供した、YOASOBIのプロフィールを確認しておきましょう(ソニー?ミュージックエンタテインメント所属)。YOASOBIは、ボーカロイド?プロデューサー(略して「ボカロP」)の「Ayase」(あやせ さん)とシンガーソングライターの「ikura」(いくら)(幾田りら さん)による2人組の「小説を音楽にするユニット」です。

「ボカロP」(ボカロピー)とは、YAMAHA「VOCALOID」(ボーカロイド)などの音声合成ソフトで楽曲(ボカロ曲)を制作して、YouTubeなどの動画投稿サイトへ投稿する音楽家?アーティストを意味します。ちなみに、『アイネクライネ』『Lemon』など、日本を代表する超人気シンガーソングライター、米津玄師(よねづ けんし)さんの原点は、「ハチ」というネームの大人気「ボカロP」としての活躍にあります。

音楽ユニット、YOASOBIは、ソニーミュージックが運営する小説?イラスト投稿サイト「monogatary.com」に投稿された小説を音楽にするプロジェクトをもとにして2019年に誕生しました。YOASOBIは、同年12月にデジタル配信限定でリリースされた楽曲「夜に駆ける」で鮮烈なデビューを飾り、それ以降、ヒット曲を連発しています。

スピーディーなメロディーだけでなく歌詞もキャッチーで、何度も聴きたくなる魅力的な楽曲の数々を世に送り出しています。代表曲は、「夜に駆ける」「ハルジオン」「たぶん」「群青」「ハルカ」「怪物」「ラブレター」など。

 Ayaseさん、「今年は明確に明瞭に、勝ちにいく。」とツイート!

今回、「YOASOBI」の楽曲「アイドル」が米国ビルボード?グローバル?チャートで首位を獲得した要因を抜き出しておきましょう。要因の抽出にあたって、エンタメ?ビジネスの専門家、noteプロデューサー/ブロガーの徳力基彦氏や、推し活応援メディア「numan」(ヌーマン)編集部の明快な解説を参考にします。

徳力基彦氏によると、今回の楽曲「アイドル」は、2023年初め(1月3日)に、YOASOBIのプロデューサーAyaseさんが「新年早々NewJeansの新譜にやられたなこれ。良すぎて悔しくなった。今年は明確に明瞭に、勝ちにいく。」とツイートした後に発表されたために、業界でもかなり注目されていたそうです。

第1の人気の要素は「ヒップホップ」の曲調です。つまり、今回の「アイドル」が、従来のJ-POPの曲調ではなく、世界を意識した「ヒップホップの要素」を軸にして制作されていることです。Ayaseさんは、前述のとおり、K-POP5人組多国籍アイドル「NewJeans」(ニュージーンズ、HYBE系ADOR所属)などの影響を受け、音楽配信で世界的に人気の高い中毒性の強いサビの楽曲を制作することを意識したそうです。

ちなみに、NewJeansの楽曲は、シンプルかつミニマルな構成で、1990年代?2000年代のR&Bを彷彿とさせるような洗練されたサウンドが採用されていて、従来のK-POPガールズグループとの差異化に成功していると、一般に分析されています。楽曲「Ditto」を例にとれば、細かく刻むリズムとエレクトロなサウンド、エモーショナルなメロディラインで聴かせる楽曲に仕上がっています。

楽曲「アイドル」に関して、アメリカ人YouTuber「FreshestAnime」は、「これまで『推しの子』を視聴していてオープニングをスキップしたことがない。流れるとついつい聴いてしまう」とコメントしています。たとえば、Netflixには「オープニングをスキップする」機能がありますので、「スキップ」しないということは、毎回、主題歌「アイドル」を楽しんでいるということです。 

「TikTok」のBGMとして、「アイドル」は複数のパートが切り取れる!

第2の要素は「TikTok」ユーザーに対してフレンドリーな楽曲であることです。一般に「TikTok」に投稿されるダンスなどのショートムービーでは、楽曲のサビの部分がBGMとして流れます。そのBGMが動画とともに世界中に拡散され、それによって元曲が注目されるという「TikTok」由来のヒット現象が多発しています。「TikTok」を制したものが、音楽市場を制すると言っても過言ではない状況が、現在生まれています。

そうしたことを踏まえて、この楽曲「アイドル」では、「TikTok」において、サビだけでなく、複数パートをBGMに選択できるように制作されています。リズムの変化や転調など「アイドル」の曲調がめまぐるしく変わるため、「TikTok」ユーザーが、ダンス動画とそのBGMとしていくつかのパートを選択できるという「TikTok用のダンスBGMとしての使い易さ」に配慮されているようです。

実際、2023年5月3日公開の「TikTok」上における楽曲人気を測るチャート「TikTok Weekly Top 20」(集計期間:2023年4月24日~同月30日)で、YOASOBI「アイドル」が第1位に輝きました。

この楽曲の人気は「TikTok」上でも顕著で、推しのアイドルの切り抜き動画のBGMやダンスや歌ってみたなど、歌詞やアニメのストーリーに合わせて、様々な動画に使用されています。また、YOASOBIは同年4月24日にTikTokライブを開催し、この時に披露した「アイドル」のライブ切り抜き映像は、投稿後3日間で500万回以上再生され、56万件以上の高評価を獲得しています。

 さらに、海外の他の視聴者からは、楽曲「アイドル」に対して、「途中でスローダウンするところが良い」や「エレクトロニックなサウンドが最高」などの肯定的なコメントが寄せられています。

 このように、「アイドル」が「TikTok」フレンドリーな楽曲であることが裏付けられています。

  「アイドル」英語版のタイムリーなリリース!

第3が、英語版のタイムリーな公開です。米国?アジアなどの世界市場に向けて、日本語版「アイドル」のリリースに遅れることなくその英語版がタイムリーに発表されました。冒頭で触れたとおり、2023年5月末に「英語版」がリリースされると、米国ビルボード?グローバル?チャートの6位から1位に急上昇しました。英語版のリリースが首位獲得への推進力になったことはまちがいありません。

第4の要素が、人気アニメ「【推しの子】」の主題歌であったことです。一般に、日本のアニメの主題歌がグローバルチャートで躍進する傾向があるといわれています。その意味では、今回の「アイドル」の首位獲得もそうした傾向と同列にあるといってよいでしょう。

以上の要因に関連して、筆者は、楽曲「アイドル」の制作にあたっての世界を意識した戦略眼と、K-POP人気グループの「BTS」(防弾少年団)の楽曲制作にあたっての戦略に、ある種の共通点が見出せるのではないか、と考えています。 

アメリカ市場を制覇したBTSと同様、YOASOBIにも周到な戦略が!

ここで、音楽評論家のスージー鈴木氏の分析(『文藝春秋オピニオン 2022年の論点100』)にもとづき、YOASOBI「アイドル」と比較する意味で、BTSのアメリカ?世界市場を視野に入れた戦略性を確認しておきましょう。

スージー鈴木氏によると、BTSの世界的ヒット曲『Dynamite』と『Butter』には、思わず腰が動いてしまうようなリズムパターンが採用されています。それが、「4つ打ち」のリズム。バスドラム(大太鼓)が「?ドン?ドン?ドン?ドン」と四分音符を打ち続ける最もシンプルでベタ(ありきたり)な、いわゆる「ディスコ」のリズムです。これは、1980年前後に、洋楽邦楽の「通奏低音リズム」となったリズムで、両曲の4つ打ちのベタ度は、マイケル?ジャクソンの大ヒット曲『ビリー?ジーン』(1983年)級だそうです。

だからこそ、このリズムは、リスナーの間口が極めて広くなり、全米の都会も地方も、老若男女すべての者にとって、「思わず腰が動く」リズムとなっています。リズムが複雑化?細分化した現在の音楽シーンのなかで、BTSの両曲は、あえて「ど真ん中」に切り込んだ、一周回ってもとに戻った結果の独創的?戦略的なリズムが取り込まれていると、スージー鈴木氏は分析しています。

 BTSの「循環コード」はグルーブのループ状態を作り出す!

くわえて、コード進行も特徴的で、両曲とも「循環コード」を使っています。「ど真ん中の4つ打ち」の上に乗る「循環コード」によって、シンプルなグルーヴ(乗り)がループして積み重なることによる「原始的な快感」が醸成されます。言い換えれば一種のトランス状態(恍惚感)と表現できます。

複雑なコード進行や複雑な転調があふれた昨今の日本の「J-ポップ」に対して、世界を制覇したBTSのコード進行は、その対極にあり、その新鮮さが、米国のみならず、日本や世界の若者の気持ちをつかんだ。それが、スージー鈴木氏の洞察です。

以上のように、アメリカ、そして世界を制したB T Sの戦略と比較すると、YOASOBI「アイドル」の世界進出のプロセスからも、同じような周到な準備と戦略性が読み取れます。

そのYOASOBIが、2023年8月上旬、米ロサンゼルス開催される大型音楽フェスティバル「Head In The Clouds Los Angeles」に出演します。「Head In The Clouds」とは、アメリカを拠点にアジアカルチャーを世界に発信するレーベル「88rising」が主催する大型音楽イベントです。アメリカの音楽ファンが、まさにリアルの「YOASOBI」を体感できるのです。

2023年、YOASOBIによる、米国、そして世界の音楽マーケットへの進出が本格化します。どんな熱狂を巻き起こすのか、今からとても楽しみです。


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