海外にまったく縁のなかった私が香港へ赴任
就職活動をしていた頃、「どうせ仕事をするなら人に感謝されることをしたい」と思い、小売業を選択し、ジャスコ株式会社(現イオン株式会社)に入社しました。入社後3年ほどは売り場での勤務を経験し、4年目で人事教育部に異動、それ以降人事?教育の仕事に携わるようになりました。そのまま日本で働いていくことをイメージしていたある日、人事部から海外赴任を打診されました。妻に海外勤務について相談すると「もちろん一人で行くんだよね?」と言われたことをよく覚えています。当時はまだ海外で働くことが珍しく、家族帯同でなければ海外赴任が出来ない制度であったため、家族としっかりと相談した上で、赴任することを決めました。
初めての海外勤務地である香港では、3年間の駐在を経験し、その後、 中国、マレーシア、ベトナムと4つの地域で海外駐在勤務を経験しました。現在は、そんな駐在経験も活かし、海外人事マネージャーとして、海外事業を人事の面からサポートしています。例えば、現地法人が経営目標を達成できるよう、専門知識やスキルを持った人材の海外派遣のアレンジや、現地スタッフへの日本国内研修などのアレンジ、また、海外で働く日本人の生活面に関するサポート等が、私たちの主な役割となっています。
現地スタッフの信頼を獲得した施策
海外で駐在勤務していた頃を振り返ると、マレーシアでの経験が印象に残っています。赴任当時、イオンはカルフール社※1 が運営していたマレーシアの事業を買収し、「イオンビッグマレーシア」として新たな船出をしていました。ただ、旧カルフールのスタッフは、イオンの企業理念や価値観について深く理解ができていない状況でした。そして、イオンの従業員として求められる仕事の進め方や、お客さまへのサービスの在り方等、我々の理想とギャップが生じていました。我々は、このような状況を立て直す事から着手しました。まず初めに、「イオンの企業理念やお客さまをどのように考えている会社なのか」理解してもらうために、社長から従業員へのビデオメッセージを作成。全ての従業員に視聴してもらうため、全店で複数回の視聴時間を設け、価値観を共有することにしました。
次に、イオンが従業員を大切に考えている事を理解してもらうため、すべての店舗で月に1回の職場懇談会を行いました。現場の従業員がどんな不満や会社への疑問を持っているのか聞いて回り、直近数年は、業績不振から、古い商品が在庫として残っている事や、店舗内の施設備品が痛んでも改修されず放置されている事など、多くの問題が存在する事に気づかされました。これらに対し我々は、従業員の声をすべてリスト化し、優先順位をつけ、何を、いつまでに改善するか決めたうえで、各店の従業員掲示板に貼り出しました。従業員と約束したことを確実に実行することで、「イオンは従業員と約束したことを守る会社」ということを、時間をかけて示し、少しずつ現地スタッフからの信頼を得ることが出来ました。
※1 フランスにグループ本社を置き、世界各地にスーパーマーケットチェーンを展開する小売企業。
海外展開を促進し、その地域のさらなる発展に貢献
イオンが進出しているアジア諸国は未だ発展途上の国が多く、そこに住む方々の中には、「自分たちが努力をすることで国も会社も伸びていく」という期待や情熱を持っている方も多くいらっしゃいます。そのため、学習意欲が高く、我々からの教えに対する受け止め方が真剣で、彼らと接する中で、我々も刺激を受けることができます。そういった国やエリアで働くスタッフをサポートしていくことで、その地域に貢献できることは、私たちの仕事の魅力であり、使命でもあると思っています。今後も人口が増え続け、マーケットが拡大していくアジア諸国は、当社にとってもチャンスであり、イオンのグローバル化は更に拡大していく予定です。今後の私自身の役割としては、将来海外で活躍したいと希望している社員に対し、より質の高い教育の場を提供することで、海外で働く社員のすそ野を広げていきたいと思っています。
「阿吽の呼吸」は通じないグローバル時代
グローバル化が進み、日本国内の外国人労働者や国際結婚をする方々が増えています。隣に外国人が住んでいることも珍しくない時代になりました。そういった社会の中で、異なる言語や価値観、慣習を持った方々とコミュニケーションをとるには、昔から日本にある、言葉にしなくても伝わるといった「阿吽の呼吸」は通用しません。言葉に出してしっかりと伝える必要があります。その上で、相手に理解してもらうための英語力はもちろん大切ですが、それと同時に「共感」を得られるような表現や工夫が大切だと考えています。私の場合は、海外赴任中は、会話の中に「例え」を多く入れることと、「なぜそれを行うのか」の理由を伝えることで相手の共感を得ることを意識してきました。会話の中でそういった工夫を積み重ねていくうちに、だんだんとお互いの価値観を共有することができるようになり、コミュニケーションが円滑になります。部下と会話をする中で、「佐々木さんならそう言うだろうと思っていました」という言葉が出てきたら、私の価値基準を部下と共有できている事、また、良好なコミュニケーションが取れているなと感じる事ができたものです。
聴衆の心を動かすプレゼンを ~コンテストに挑戦する皆さんへ~
海外赴任当初、私は英語のコミュニケーションが苦手でした。それは日本人特有の「間違えたら恥ずかしい」という思いがあったからかもしれません。皆さんが、このコンテストに挑戦することで、そういった気持ちを振り払い、英語力、論理性、構成力といった能力の向上はもちろんのこと、大きな舞台にチャレンジしたという「自信」の醸成に繋がると思います。この「自信」は、皆さんが社会に出たときに、一歩前に進むための後押しになるはずです。
また、今年はアメリカ大統領選挙がありました。過去の歴史を見ても印象的な演説で聴衆の心を引きつけた人が大統領になっています。改めて、「言葉」や「表現力」の持つ力の強さを感じます。皆さんも持てる力を存分に発揮し、聞く方々の心を打つようなプレゼンテーションとなりますよう期待しています。