二度の大怪我を乗り越えて
過去に大怪我を二度経験しました。その度に、スキーヤーを辞めるかどうかで悩みました。自分はもう戻れないかもしれないとか、色々なことを考えますけど、自分自身を形成しているものを捨てることは、単なる「人」になるって言うことですからね。辞める選択というより、スキーを継続する方がリスクヘッジだと思っていたし、怪我が辞める理由にならないと思っていました。それが続けられた理由です。例えば、オリンピック選手になりたい、金メダルを獲りたい、コンテストで入賞したいと一度目標を立てると、目標までの道ができます。達成するまでの道は、途方もない距離に感じ、本当に達成できるか分からないです。しかし、怪我をした時に思ったのは、手に届きそうだった目標を捨てるわけにはいかない、子どもの頃から目指していた夢をたかが怪我でなぜ諦めるのだろうと思いました。過去を否定しても、白紙にしても何も変わりません。どうせなら挫折という経験を「財産」に変えていく方が、自分のキャリアに生きるという考えを私は学びました。そのおかげで怪我を乗り越え、今では活動の幅も広がり、プロスキーヤーの傍ら、全日本スキー連盟の理事としても活動しています。
国際会議で学んだ交渉術
先日開催された、国際スキー連盟の理事会で各国のプレゼンを聞いて、人の印象に残るのは、その人の言葉のキャッチーな部分と数字(エビデンス)が重要だと学びました。
また、失敗事例がないと説明しようとするものが際立たないので、対比を持たせてプレゼンすることも大切ですよね。特に数字に関しては、聴衆に危機感を与える上で重要な役割をします。例えば、僕は先日の理事会のプレゼンで、「スキー連盟の登録メンバー数は変わっていないが、特定の年齢層の人口が減った場合、メンバー数は激減する」など、具体的な数字を示して聴衆に危機感を与え、かつプレゼン全体にストーリー性を持たせました。そういうことに気を付けて話をすると、聴衆は「え?そうなのか」となるわけです。特に、僕らのやっていることは、映像で見ている人は想像がつかないことが多いと思います。選手がどういう景色を見ているか、どんなことを感じているのか分からないですよね。解説の仕事をする時、僕はアルペンスキーをやっているので分かりますが、やっていない人たちが映像で見ている場合と、選手から見えているものとで、何が違うのかということに気を付けています。聴衆にどれだけ具体的なイメージを描かせるかがポイントになってくると思いますね。これは、プレゼンにも共通することです。プレゼンする内容に聴衆の矛先を向けるためには、具体的な数字や失敗事例を含んだストーリー性の感じられる内容でないと、単なる自己満足で終わってしまいます。
プレゼンとスポーツに共通すること
スポーツでも、国際会議のプレゼンでも、一度自分の実力を試すことが重要で、ただ毎日練習しているだけでは意味はないと思います。英語の場合であれば、プレゼンテーションコンテストなどに積極的に挑戦していくことがそうかもしれません。一つのハードルを設けると自分の立ち位置が分かります。頭で想定している課題点と実際に浮き彫りになる点がちゃんと見えてきます。そうすると、自分は何を用意しなければならないかが明確になります。想定だけでいきなりゴールを目指してビジョンを描いても、なかなか上手くいきませんね。スポーツにも共通していて、自分はこれが苦手、これが得意と割り切るのではなく、全体として優れていなければなりません。本番前にジタバタしないように、入念な準備をしていくことが大切です。私はいつも5年後、10年後にライバルとは同じ景色を見ていないようにモチベーションを上げ、維持してきました。周囲と同じ考えに捉われてしまうと、自分自身の成長率も下がってしまいますからね。自分にしかできない経験を積むことで、ライバルよりも数倍早く成長できると信じています。これはスポーツにおいても、プレゼンにも共通していることだと思います。準備を怠らず、果敢に挑戦していくことが大切だと思います。
【インタビュー動画はこちら】 https://youtu.be/Tq4-0ZzvczU